工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

機械、電動工具をその性能、品質から考える(海外メーカーとの比較において)【その5】

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日本国内の状況

これまで、私が導入した海外メーカー電動工具の代表的な事例から、その特徴と、開発の理念などを考えてきましたが、翻って日本国内での電動工具の状況はどうでしょうか。

日本国内ではプロ向けのものを製造販売しているのは、マキタ、日立工機、リョウビの3社と考えて良いでしょう(アマチュア向けには他にも多くのブランドがあるようですが、これらの仕様などは不明ですので、検証の対象にはしていません)。

各社、販売されている商品のラインナップは、それぞれに主要部門で被っているようです。

そのことで競争原理が働き、似たようなものではあるものの、それぞれ細部においての仕様の差異を競っているようです。

強力なバッテリー工具の展開と進化

私の顧客にマキタの開発部門の社員の方がおられるのですが、充電工具においては、世界の中でももっとも進化していることを誇っていました。
数多くは無いものの、私もマキタの充電工具を数台愛用しており、確かにすばらしいものがあると思います。
またその進化のスピードも速いようです。
確かなことは分かりませんが、充電工具などにおいては、毎年、いや半年ごとにも更新されているような感じすら受けます。

これはLi-ionバッテリーそのものの進化発展を背景とした、高電圧化、大容量化、コンパクト化の流れがあり、市場制覇を狙ったボデーのコンパクト化、使い勝手の向上等、各社の競合はめざましいもののがあるようです。

以前には考えられもしなかった丸鋸であるとか、鉋に至るまで、あるいは下にも示すように、ビスケットジョイナーにもバッテリー仕様のものが開発されるなど、Li-ionの高性能化がもたらす工具市場における激変は目を見張るものがあります。
日本の電動工具メーカーは、その先頭に立ち、世界を牽引していると思わされるものがありますね。

総合メーカー

また、これは3社とも共通する特徴だろうと思いますが、電動工具、あるいは充電電池の工具においては、あらゆるジャンルのものを製造している総合メーカーという特性があり、こうした特性は世界に冠たるものがあるといって良いいでしょう。

アメリカにも同様の企業理念で総合展開しているメーカーもあるようですが(Delta、Black & Decker、DeWalt[Black & Deckerの傘下]、Porter-Cable[同じくBlack & Deckerの傘下]、Milwaukee、etc.)、その多くが経営体が変わったり、合併したりと、その経営内容は必ずしも良いものでは無いようにも窺えますね。

欧州においてもそうした傾向から免れはしないと思われるものの、新自由主義的経済が支配しているアメリカ的企業体の栄枯盛衰からは距離を置き、長期的視野に立ったマシン開発が可能な環境が残っているのかなと思えてきます。

さて、日本の電動工具のメーカーです。
後述しますが、ハンディクリーナー、芝刈り機など民生品への進出なども含む、総合メーカーとしての力量、あるいは開発力は優れたものがあるのですが、ただ残念なことに木工関連分野では、Dominoに比肩するような独自の開発思想で作られた工具は果たしてどのようなものがあるのか、寡聞にして知りません。

オービタルサンダーの開発

また、サンダーと言う、木材加工の仕上げ工程では欠かせない研削のための工具がありますが、最近では専らオービタルサンダーという高効率、高機能のタイプのものが主流で、世界的にも標準的なものとして普及しています。

このオービタルという機構を開発したのはどこかご存じでしょうか。
残念ですが日本の電動工具メーカーではありません。
Festool社が1951年に開発したものです。(History of Festool

ナチス支配による世界大戦末期の焦土からニュルンベルグ裁判を経、東西に分断させられ、国土の再建に起ち上がって間もない、1951年の開発というので、驚きます。
(日本でも、この1951年という時期は、朝鮮戦争への特需を大きな梃子として本格的な国土再建が為された時期でもあるのでしたが)

その後、全てのメーカーがこのオービタルのタイプに追随したわけですが、こうした業界のデファクトスタンダードになり得る、革新性のあるものを開発する彼我の力の歴然たる差(開発意欲の差)は残念ながら認めざるを得ないでしょう。

ビスケットジョイナー(Lamello)

Lameroという機種はDominoに先行する半世紀前(1955年?)に、スイスLamero社が開発したものですが、特許解放後の1990年代頃に日本のマキタなども追随していきました。

しかし、その機械的精度、使い勝手等、Lamelloを凌ぐものにはなり得ていないというのが専らの評価のようで、残念です。

前回触れた、このBiscuit Joinersの詳細な比較検証がFWW誌で行われておりますので、少し引用を含む紹介をしておきます。(FWW #235:2013/August)

FWW誌では、誌面そのものをPDFでネット上に置き、提供がなされていますので、そのままここに掲載したいところですが、著作権の問題があり、それはできません。
下のクリッピングはそうした事情によるもので、あえて判読を困難にしてあることをご理解ください。
読者でFWW公式Webサイトにアクセスできる方はLogInされ、DLし、閲覧ください。(こちらです)

なお、Webサイトでは、このTestの簡略版的なページがあります)

ざっとリストしてみます。
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  1. Lamello Classic X
  2. Lamello Top 21
  3. Craftsman – 175390 Biscuit Joine
  4. DeWalt DW682K
  5. Makita PJ7000
  6. Makita LXJP02(バッテリー式)
  7. Porter-Cable 557
  8. Ryobi JM 82

結論的には、Lamelloの2機種がいずれも〈BEST OVERALL〉とされ、DeWaltが〈BEST VALUE〉とされています。
恐らくは、誰しも納得し、首肯せざるをえない、想定通りの結果では無いでしょうか。

特許が開放され、各社揃い踏みで開発リリースしてきたわけですが、一日の長と言うべきか、Lamello社としても創業者利得を最大限に活かしつつ、より高精度で、より高機能(一部 多機能)であるとの評価。

価格は他機種の3〜6倍と高価であるものの、ヘビーユーザーであれば、それだけの価値はあるとされています。

Best Valueに評価されたDeWaltはラック&ピニオン機構、機械精度の高さ、ロックオントリガスイッチなどの快適さが評価対象とされています。
価格もマキタよりさらに安価なようです。

マキタのプレート ジョイナー

さて、マキタです。
プランジ機構のスムースさは高評価。ただフェンスの90度ロックのストップが不正確、あるいはフェンスの横方向での遊びなどに注意を要するなど、少し辛口です。

マキタにはバッテリーのものもあるのですね(日本国内でもあるのでしょうか?)
機構部はPJ700と同じようです。18Vバッテリーですので、かなりパワーはあるようです。(現場作業の職人には良い選択かもしれません)

発売されて間もなくの頃、マキタの初期モデルをTestしたことがありまして、既にLamelloのユーザーだった身としては、それはいかにも脆弱で頼りなげないイメージがありましたが、現行機種は少し改善されているようですね。

より小さなビスケット専用のRyobiの機種は初期のものを所有していますが(米国からの個人輸入)、ほとんど使っていません。
機械精度におけるガタつきが許容限度を超えたりと、実用に耐えるような代物ではありません。

マキタのビスケット ジョイナー(マキタの商品名:プレート ジョイナー)ですが、Lamelloに比較し、かなり安価なものであるものの、ただ日本を代表する工具メーカーがコピー機を作るのであれば、元祖を越える性能と品質のものを提示し、どうだ、これが日本のモノ作りの力だ!と誇れるものを作って欲しいと願わずにはおられません。

この開発部門における経営判断、市場の見通しなどから製造に踏み切る際の内部の議論がどうであったか、知りたいものです。
既にLamelloと言う先行メーカーがあり、恐らくは多くの電動工具メーカーが特許解放を機に市場投入してくるであろう、その分野に経営資源を投下する決断における判断がどうであったのか、ですね。

日本のユーザーなど、この程度のもので十分だろう、といったものであったとすれば、とても残念なことです。

彼我の差はどこから・・・

さて、以上これまで電動工具における開発の在り様、企業理念について少し考えてきましたが、ある若い木工職人の方からの指摘は、どうしてこのような差異が出てしまうのか、ということでした。

少し考えて見ます。
私の表現方法で概念的に捉えれば、近代という時代を作り上げてきた歴史への関わり方の違い、またそれにも深く関わることになると思いますが、いわゆる国民性、エートスの違いが大きいと思います。

これに加え、近代以前のその国における人々のモノ作りへの考え方、向かい方、なども工具の開発と深く関わっていると考えられます。

これまで本シリーズで取り上げてきた革新性の高いマシンですが、これらはいずれも欧州のメーカーであるというところからも、そうしたモノ作りへの関わり方、それを専門的にプロ向けの機械メーカーとして会社を興し、経営を進めていくスタンスというものの特徴が垣間見られる思いがします。

以下、さらに少し詳しく見ていきたいと思いますが、次回は木工機械、および電動工具の市場の現況からです。

hr

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