工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

機械、電動工具をその性能、品質から考える(海外との比較において)【その3】

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FESTOOL社との出逢い

Domino

ハンドルーター OF1400 の導入後、間もなくやってきたのがDominoでした。

Domino DF500

Domino DF500

当時、国内のWeb上では、まったく情報が上がっていませんでしたが、たまたまOF1400のアタッチメント情報の確認にFestool社のWebサイトをチェックすると、とんでもないユニークなマシンのリリース告知が掲載されていたのがこのDomino。

さっそくBlogに上げたのが2007年2月のこと(こちら

その後、Fine Woodworking誌に特集として掲載された詳細な解説等も含め、幾度もこのDominoの紹介をしてきたわけですが、今では恐らくは多くの人が導入し、使われているものと思われます。

Domino XL

Domino XL

このDominoは、DF500Q発売の数年後、さらに大型のXLという機種がリリースされたこともあり、より実用性が増し、家具屋よりも、むしろ現場で活躍する造作家具屋、建築、設備業者へと導入が拡がっていったようです。


今さらこのマシンに関して語る必要も無いわけですが、実に画期的なマシンでした。
一見、構造的にはそれまでのLamello様のコンパクトなマシンであるわけですが、ホゾ穴を穿つ機構を有するという、その新奇性、革新性、使い勝手の良さ、精度の高さ、簡便さ等々、驚かされたものでした。

上記の私の最初のBlog記事へは多くのコメントが寄せられ、中にはこんなものくだらない、といったネガティヴな評価も実は少なく無かったわけですが、個人の好みは別として、その画期的な機構を産み出した開発担当者に、私は最大の評価を与えても惜しくはありません。

機構的にはLamelloの派生と言えなくもないのですが、回転“軸”を左右に高速で振動させながら、加工材を一定の幅で枘穴様に穿っていく。しかもその精度は確かなものがある、という機構です。

Lamello社の開発担当者をも驚かせ、してやられた!と慨嘆させ、株主からは強いお叱りを受けたのではと気の毒に思うほどです。
こんな開発思想、誰も考え付きはしなかったのでは無いでしょうか。

例え発想できたとしても、この“軸”を左右に高速で振動させながら掘り進むという機械的な設計は、決して容易なものではなかったはず。
高度の設計思想と、これを大量生産させるプロダクトとしての製造システム基盤が無くては為し得ないものですので、これには恐れ入りました、といった感がします。

Dominoビット

Dominoビット

またその刃物(カーバイドチップ=超硬刃物)ですが、かなり特殊な回転機構であるため、特殊な刃形をしています。(右写真)
機械の開発に必要とあれば、刃物までを独自に設計し、製作するというこだわり。

このスピンドルの動作の特殊な機構以外にも、その付加機能にも視るべき事は多いです。
一見、Lamelloの機構と似ているとは言え、様々な付加機能があります。

▼いくつものステップでの厚み設定、▼数種のドミノの長さに対応した深さ設定、▼そしてユニークなのが、ドミノの幅と同一の設定の他、2通りの遊びが設定可能という、至れり尽くせりの機構が搭載されているのには感心しきりでした。(最後段のビデオを参照ください)

マシンというのは、初期のリリース後、改良を加えつつ、数年おきに更新していくケースが多いと思いますが、これは最初から完成形を出してきたという感じでした(一部、初期モデルのリリース後、位置決めのためのストッパー機構が改良されています)。


なお、最近、このDominoに関連し、いくつかのアタッチメントが3rd パーティー社から開発リリースされつつあることを知りました。
主にフェンスですが、大変興味深いものがあります。

これらは本機に装着させることで、加工範囲を拡張させ、また切削精度を高めるものとして有用だろうと思われます。

これが意味するものは、リリースされ7年ほど経過し、広くその性能が理解され、現場での活用が進んでおり、現場からの要求に応えた周辺機器メーカーの対応と考えることができるでしょう。


ところで、私のような、在来構法的な家具制作では、角ノミで枘穴を開け、昇降盤でホゾを付ける、というスタンダードな仕口作りが専らなわけですので、そうした環境下では、あえてこのDominoの登場を願う必要性はありません。

ただしかし、角ノミ機の懐の限界を超えたところでホゾを穿ちたいケースもままあるわけです。
このようなケースではDominoならではの特性が生きてきます。

これが開発リリースされる以前、こうした角ノミ機に余る、深い位置への枘穴開口を可能にするために、コンパクトな卓上角ノミ機のベース部分を改良し、大きなC型アームを鉄製のチャンネルで作ろうと本格的に考えた時期もあったほどですが、このDomino登場でそのような困難な製作での対策は不要になったというわけです。

あるいは椅子に代表される複雑な造形物への枘穴など、角ノミ機では困難な場合もありますが、これもDominoであれば対応可能というわけです。

他にも活用方は多いと思います。

上述したように、現場作業での活用方はとても多いと思われます。
大型のXLの登場は、こうした分野にかなりの貢献をしているのでは無いでしょうか。

このDomino、Web上の百科事典。wikiにも登場しています(こちら)。


【参考資料】
■ DOMINO DF500 マニュアル PDF

【Domino DF500 Getting Startedビデオ/ by Festool USA】
[youtube]http://youtu.be/sD2QxrwuvJk[/youtube]

【Domino XL ビデオ/ by Festool USA】
[youtube]http://youtu.be/gOIT0tNNaBc[/youtube]

本稿続く
次回予定ははLamelloから

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • こんにちは!
    Festoolドミノについて調べていてこの記事を発見しました!
    私は昔ながらの人間で、ノミで穴をほり、ほぞを入れるという工法しか知らないのですが、知人にドミノというものがあるよと教えてもらったのです。これは便利そうな道具ですね。

    拝見していますとオーナー様は国内でこの道具の第一人者であられるようでお聞きしたいのですが、
    日本の高温多湿の環境で、ほぞをこのようなダボ(?別材の楕円の棒)で済ませてしまっても問題ないのでしょうか。
    簡単に言えば幅広のダボで組んでいるという事ですよね?
    私個人的にはダボはすぐ抜けるイメージがあり、
    椅子等の強度が必要な部分には向かないのかな?と素人目には感じます。
    またこれとは別にラメロという道具もあるようでてんやわんやですが・・・。

    何かこの道具には他にも秘密があるのでしょうか?
    私が考えすぎなのでしょうか?使用者のご意見を聞かせて下さい!

    • bonbonさん、投稿ありがとうございます。
      伝統的な手法で、良質なお仕事をされていらっしゃる方と拝察いたします。

      私はDominoが市場にリリースされ、比較的早い段階で導入した者の一人で、ご覧いただいたように数回にわたり関連する記事を上げてきています。

      私もどちらかと言えば、伝統的仕口を基本とする木工をしていますが、これはDomino導入後も変わるものではありません。
      それらのことについても、Dominoに関連する記事で書いてきていますが、簡単にお話ししますと、仕口の基本的な領域においてはDominoに依存することなく、伝来のホゾを付ける方法を取っています。

      この場合、枘穴のほとんどは角ノミ機を用いますが、この角ノミ機が使えない板指しなどの幅広の中心部付近への枘穴などはbonbonさんがおやりになっていると思われる、手ノミで穴を穿つと言う方法を取るわけですが、こうした部位にDominoを用いることで、切削精度とともに作業性が高まることになります。

      あるいはまた、椅子などのような複雑な造形の試作で、接合部へのホゾ付けの難易度が高い場合、このDominoを用いることで、比較的容易に接合部の仕口を刻めますので有用です。

      このように、角ノミで容易に穿つことの可能な一般的なホゾであればDominoに依存する事はありませんが、角ノミ機では対応が困難な場合などにはDominoは大変有効です。

      また、建築のように、現場での刻みが求められるようなケースでは大いにこのDominoが活躍するでしょう。

      次ぎに、ホゾの強度が出るのか、というご懸念ですが、Dominoでのオスメスの結合度はとても高いものと考えていただいて構いません。

      なお、ご指摘のLamelloのチップですが、これはいわば平ダボで、接合強度を期待するのはあくまでも限定的です。
      これと較べ、Dominoはその形状、深さ(長さ)からして、ホゾの代用として接合強度が期待できます。
      無論、本来のホゾとは異なりますので、強度は一部限定的でありますが、それでもなお、その機能性、汎用性からして、他機種に追随を許さぬ画期的な製品と評価できるでしょう。

      ここでは記述できませんが、Festool社の製品全般に言えることですが、マシンとしての作り込みがとても秀逸です。機械精度、機能性、汎用性、様々なところにおいて、ユーザビリティの高い商品と言えるでしょう。

  • 詳細な回答ありがとうございます。
    私自身Festoolのルーターを持っているので、きっとこのdominoも「この世にこんなマシンがあったのか」と驚嘆するに違いない事は承知しているのですが、まったく使ったことのない道具というものはどうも懐疑的に見てしまいます^^;笑 いけませんね。

    基本的には従来のホゾ接合で、特殊な場合にdominoとの事で理解できました。たしかに3次元に伸びるほぞを手鋸で切り出す時は、ほぞも胴付きも中々怪しいものがあります。(私の腕のせいですが^^;
    そう考えるとdominoの方が安定した強度が獲得できますね。

    北欧の曲線的なタイプの家具の製作動画を見ていると、(NCルーターですが)ほとんどこのダボホゾで接合していますね。
    購入を検討してみます。

    • Festool社のルーターを使っていらっしゃるということであれば、Festool社の信頼性は良く理解されていらっしゃるというわけですね。

      アマチュアではハンドドリルやハンドルーターで、かなり苦労しながらの、精度の低い加工にならざるを得ないmortise & tenon加工の工程。Dominoはコンパクトなパワーツールでしかありませんが、高精度で容易に加工する画期的な工具です。

      仰る通り、家具工場ではこのmortise & tenonをNCルーターで加工するわけですが、我々のような小さな工房で、これに代替するものを使えるというのはありがたい時代です。

      もし導入されましたら、またぜひリポートしてください。
      良い仕事に繋がれと願っています。

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