iWoodという“工芸品”
果たしてそんなものが工芸品という定義に当てはまるのか、という疑念を指摘されるのを承知であえて言ってしまおう、これは立派な工芸品だ。
iPhone 3Gのケース。
画像にあるように木製である。
残念だが、うちの製品ではない。
iWood と称するオランダ製の工業製品である。
ある日本の代理店経営者とこのiWoodに関する話しをさせてもらったところ、「手作りですので、なかなか思うように生産ができないようで、入荷が少ない‥‥」との弁。
木製だもんな、手作りだからな、と首肯したのだが、いざ手元にきてあらためて確認すれば、優れた工業製品であると見た。
確かにプラスティック、鉄製品などとは全く異なる自然木を素材とするものであったとしても、またそれがいかに優れたものであったとしても、これを“工芸品”と呼称するにはいささかのうしろめたさのようなものに囚われてしまうのは否定しがたいところかも知れない。
ところで“手作り”という、今や手垢に汚れてしまった物言いでしかその品質を言い表すことができないというのは実に嘆かわしいものであるが、このiWoodは“手作り”などと言う属性で価値付与されるべきではなく、工業的生産システムにおいてこそ、これほどの品質の製品が生産されているということを知るべきなのだ。
したがってこのiWoodはIT社会という現代におけるもの作りでの“工芸品”と呼んでしまっても構わんだろう、というちょっと馬鹿げた主張なのである。
少し詳しく“工芸品”と呼称してしまおうという根拠を列挙してみよう。
- iPhone G3というIT時代の“工芸品”の品質グレードに極限的に適合させて開発された、そのものづくり精神の発露に脱帽してしまう。
- 構造品質と、寸法精度
マテリアルとして見た場合、可塑性が無く、決して強度の信頼性が高いものではない木という素材を用いながら、その厚みは1.6mm〜2.8mmという薄さを実現している。 - フィッテングはと言うと、本体に装填するフィーリングは緩からず、堅からず‥‥、やや堅めに、スーッと納まるジャストフィット。
それまでのiPod Touch用のものは、接合部にマグネットを使っていたようだが、これはわずかに1mmほどの厚み、幅7割ほどの長さの凹凸の嵌め合い機構でロックされる。
iPhone 3GのGPS、他のアンテナなどへの干渉を嫌ってマグネットを避けたのだろう。 - さらに驚くなかれ、電源スイッチ、あるいはボリュームコントロールのシーソースイッチといった機能部分も、やはり木製なのである。擬木ではなく、木だよ。(画像下)
これほどまでに現代最先端のガジェットに天然木を取り込み、しかし決してダサクなく、実にクールにまとめ上げたそのものづくりの理念、探求心、精神に、ただただ敬服してしまう。
昨年7月、日本上陸とともに手元にやってきたiPhoneだが、ケースはこれで2つ目。
これまで気に入って使用してきたケースは、所詮プラスチック樹脂。
このiWoodの前には、今や全く見劣りして恥ずかしいほどだ。
木製ということで落下には耐えられないだろうから、粗忽なボクにはこの先どれだけの使用履歴を重ねられるのか全く自信はないのだが、恐らくはこの先様々なケースが市場に出回ったとしてもこれに代替すべきものが現れるということはまず無いだろうね。
ちょっと残念だったのは、ボクが選択したこのウォールナットだが、やはりというべきか、スチームドの人乾のもののようで、材色が優れない。ウォールナット固有の“ほんのりピンク”が飛んでしまっている。
もう1つ。ストラップを施すところが無い。
これは孔を開ければ済むことであるが、やりたくないし、かといって粗忽者のボクには何もない状態では、はなはだ心許ない。
なお価格だが、上述のように工業的製品であれば、さほど類種に比較して高いものではない80EUR。これは背面のカスタマー指定の刻印サービス付き。
オランダからの運賃、Fedexで32EUR。刻印カスタマーサービスがあるので発注後2週間で届いた。
材種は6種。選択可。
maple, cherry, oak, mahogany, padouk and walnut
しかしこの製造プロセス、一度覗いてみたいものだね。
構造上の精緻さはもとより、切削性能の高さ、仕上げ精度の高さ、品質安定度、さまざまな条件をクリヤさせ、iPhoneユーザーのたなごころの上の愛玩への思いを充たしてくれたMiniot 社に感謝を !
*注
このiWood、ネットで調べればすぐヒットする日本の代理店があると思うが、ここも決して過度な利ざやを掛けてはいないので利用するのも悪くないだろう。
ただ1つ、背面のユーザー指定の刻印(レーザー刻印かな?)サービスは無い。
■ 製造メーカー:Miniot社(オランダ)
*追記(09/02/18)
ちょっと恥ずかしい話し。アップロードした記事中の画像を見て気付いたのだが、Top画像に視認できるシーソースイッチ、あるいは電源ボタンは、本体と同じく木製であることは記述したところだが、何と、木目が完全に繋がっているじゃない。
電源ボタン部は木口の部位となるが、そのまま使っているよ。
つまり、これはレーザーカットで切り抜いたものを、そのまま使っているようなのだね。
いやいやそうではない。シーソースイッチの方はシーソーの中央部を少し溝を付けた状態で残し、左右の部分の周囲はカットしたようだ。
電源部も一部をビミョウに残しつつ、木の柔軟性を活かして、機能させているようだ。
その切削スリット幅、わずかに0.2mmほどか。
いやはや驚いた。
acanthogobius
2009-2-19(木) 09:24
電子機器の外装を天然素材でカバーするというのは
昔からよくありましたね。
昔PDAのケースを皮革で作ってもらったことがありますし
天然木でカバーされたマウスなどもありました。
ただ悲しいかなこれらの物は本体の電子機器と共に寿命を
終えてしまう運命にあるということですね。
携帯ですと長くて5年でしょうか。
ケースの方がもったいないと感じるのは不思議です。
artisan
2009-2-19(木) 22:37
acanthogobiusさん、
>PDAのケースを皮革で作ってもらった
カスタム制作ですか、すごいですね。
>携帯ですと長くて5年でしょうか
そんなものでしょうかね。
ボクは破損して使えなくなるまで使い倒すようになると思っている。
(これまでそうだった。ケータイ所持してから、このiPhone 3Gが3台目)
しかし、毎日掌で使う頻度の高いものだから、5年も持てばスゴイと思う。
しかも単なるケースという概念を越えた、何ものか、なのですからね。
acanthogobiusさんも機会があれば、お手にとってご覧下さい。
ユマニテ
2009-2-20(金) 17:58
ををーっ!!すごいっす!これは。
iphoneもtouchも持ってませんが、これが使いたいが為に
購入したい欲求が沸いてまいりました。
ものすごい精緻な加工を得意とするNC屋さん知ってるんですが、技術はあるのにどんなもの作ったら良いか判らない
なんて話をしてました。
こういう方向もあるんだな。と思いました。
刻印はデカルトですか。artisanさんらしいですね。へへ。
artisan
2009-2-21(土) 00:51
>刻印はデカルトですか。artisanさんらしいですね。へへ
ユマニテさんにはお分かりいただけるかな、と勝手な思いこみで文字数制限ぎりちょんのところで選択した箴言でしたが、それはともかくも、木靴の国からこのような“工芸品”があり得るということを提示していただけたのは、木に携わる端っこに位置する者の一人として嬉しいのですね。
21Cに生きていくボクたちの“希望”と、“可能性”というものは、意外なところに転がっていることを教えられてしまったというのは痛快でもあるのです。
近々、ユマニテさんにも受容いただける、ある書の紹介ができると考えていますが、これを通して木の仕事の魅力というものに、より深く掘り進めることができるというのはボクたちにとって幸せなことです。
iWood製造メーカーのサイトにアクセスすればお分かりのように、何もiPhoneでなくとも、iPodを含めた、Wood likeな物で楽しむことができますので、ぜひアプローチしていただきたいですね。