工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

スタッキングスツール

スタッキングスツール1

この図柄、ちょっと幾何学的でおもしろい。

うちの定番のスツール。スタッキングスツールを塗装途上にパチッ。
このデザインは見ての通りスタックを前提に考えたもの。

渦巻き状に積み重ねることで5脚までスタックすることが可能。
構造はとてもシンプル。

円形に座刳りした座板を三枚組み手で接合された座枠に嵌め合わせ、組み手のところに丸ほぞを穿ち脚を貫通させ、これをクサビ止め。

脚部は工房悠のいつものパターンだが、テリ脚で踏ん張らせる。
それぞれ面の処理(角面)において軽やかさとモダンさを造形させた。

面処理などはあれやこれやと多様に行うのではなく、一定の統一した面を取ることで落ち着きと美しさを産む。

また角面などはエッジを殺すことなく、シャープに立てることもポイント。
こうした端正な加工には刃の切れ味が重要。

今や面取りなどはルーター、トリマーなどでほとんど対応できるが、その後の仕上げの手鉋切削も大切。

確かにサンドペーパーで仕上げることも可能だが、樹種により、あるいは部位により逆目などによるほじくれなどへのサンディングでは、良い研削は困難。エッジも死ぬだろうし、形状そのものも変形する。

やはり一鉋(ひとかんな)掛けることで、形状を維持しつつシャープなエッジを残し、仕上げることができる。
その後の素地調整としてのサンディングはより簡単に無理なくできる。
つまり鉋掛けを避けるという考え方は、切削精度、研削精度を落とし、また余分な時間を取られてしまうという結果をもたらす。

正道を行くのが多くの要素で良い結果を産む。

材種はウォールナットでも作るが今回は本クルミ。
それだけに軽量だが、ねばりのある樹種でもあるので作りのシンプルさと確かさで、堅牢なものになっている。


スタッキングスツール2ところで過日のエントリで触れたプラグカッターはこの制作にも使った。

以前は座板と同時に脚部の丸ホゾをろくろ専門の職人に加工してもらっていたが、今回は脚のほぞをプラグカッターにて作る。
件の職人曰く、今回は脚の方はいらないの? エッ、そんな工具があるの。うちの仕事なくなっちゃうじゃない(笑いながら)。

確かに仕事を奪ってしまう所業だが、ろくろ成形による加工方法と較べてはるかに高精度で短時間にできてしまうので仕方がないところだね。ゴメンナサイ。
この職人さんにはもっと高度な仕事のためにがんばってもらおう。

今回の座刳りもとても良いカーブを描き、その切削品質はとてもシャープでバフまで掛けてくれているので、オイルフィニッシュにはうってつけ。
この職人の仕上げ品質は、いわゆる洋塗装(ウレタン、ラッカーなどの)においては、あまりに高精細な仕上げであるためステインが入り込まず、塗装屋が困惑することになる。
ボクも当初は木工旋盤を設置したものだが、その加工品質はこの職人の仕事の前ではあまりに稚拙なものでしか無いために、すごすごとかたづけてしまったのだった。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • これだけ同じ作品が並んだ状態は工房の風景というよりは
    工場のそれですね。
    エッジの処理の話が出たので、ひとつ教えていただきたい
    のですが。
    面一に組んだ部材の内側のエッジの処理についてです。
    エッジに大きな面を取る場合は面腰なり、うま乗りの処理を
    することになると思うのですが、そうでない場合は組んだ
    後でペーパーでひと撫ですることになるのでしょうか?
    例えば框の内側のエッジのような所です。
    明確な面を取ると交点の所で問題が生じると思います。
    以前、貴ブログの中で家具背面のエッジ処理がされていない
    家具に出会った話がありましたが、その場合も、特に内側はペーパー処理になるのでしょうか?
    質問が分かりにくくてすみません。

  • acanthogobiusさん、コメント感謝です。
    工場ですね。まるで(苦笑)
    1つのものを制作する時は、注文の数+αを制作して、残りを在庫して受注に応ずることになります。
    質問については、acanthogobiusさんの意欲に発憤させられ、先ほど本日のエントリ記事としてupしましたので、参照下さい。
    “ペーパー処理”とは、糸面、あるいは小さな坊主面を指すものと解釈させていただきますが、本来は組む前のパーツの段階で然るべくしておくべきことだろうと考えます。
    時には面を合わせるために、鑿などで処理することもままありますね。
    例え小さな面であっても、できれば“ペーパー処理”ではなく、鉋などの刃物で行いたいものです。(理由:精度正しく、簡単に済む)

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