工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

北京五輪の憂鬱

「同一个世界 同一个梦想 One World, One Dream」
これは3日後に開催されようとしている北京五輪のスローガン。
邦訳すれば、「ひとつの世界、ひとつの夢」という。
公式サイトの冒頭に誇らしげに謳われている。
言うなれば、IOC(国際オリンピック委員会)により制定されている近代オリンピックの「オリンピック憲章」(PDFにて提供)の精神の骨格ををスローガンとしたものと見ることができる。
昨日の新疆ウイグル自治区カシュガルにおけるウイグル人組織のものと思われるテロ事件に関する取材を試みようとした日本の新聞、放送記者への暴力的な妨害行為(例えばこちら)は、果たしてこのスローガンを体現するにふさわしいものであったのだろうか。
中国の東の端に位置する北京から遠く隔たる国境近い最北西端の古都カシュガルでの出来事が、果たして五輪と関係あるの?という疑念は残念だが当たらないようだ。
先のチベット自治区における騒乱は記憶に新しいが、その時にも次は新疆ウイグル自治区か、とも言われていたように、分離独立を巡る民族解放運動は中国当局との厳しい対立関係にあったところへ、このところの五輪開催を控えた過度な緊張の中、ウイグル人と見れば片っ端からテロリスト扱いをされ拘束されるという強硬路線が取られていたようだ。
4日の武装警察への襲撃はこうした背景から生み出されたと見ることができるだろう。
この事件が五輪開催を直前に控えた時期に起きただけに、世界のメディアが注目するのは当然。日本のメディアもスワッとばかりに、ほとんど封鎖に近いような新疆ウイグル自治区・カシュガルへと困難なルートを開拓して向かったに違いなく、さてこれから取材だ、と言う間際にカメラ、ケータイを没収され、羽交い締めされ、挙げ句の果て頭を蹴とばされるという扱い。
これが「ひとつの世界、ひとつの夢」の実相と見てしまうのは果たして不当なもの?。


世界から集うトップアスリートたちの華やかで息詰まるような競技への期待は大きいし、経済的台頭著しい中国当局にとってもまさに国威発揚の絶好の機会として世界にアピールできるチャンスであることは認めるのはやぶさかではない。
いや、この世界へ開かれた中国という新たなイメージアップのテコとしてこの五輪が活用されるなら、少しは応援したくなるだろう。
確かに2001年のモスクワでのIOC総会における開催地選考投票で圧倒的な票数を集めながらも、様々に指摘される近代国家とはかけ離れた人権問題(言論、表現、信仰、報道の自由への侵害、チベット問題などの)に対しては、開催までには全て改善するという約束を迫られたという経緯がある。
批判的な立場の人権派、個人からは「ジェノサイド・オリンピック」と称されたり、芸術顧問を委嘱されたスティーヴン・スピルバーグさえもがアフリカ、ダルフール紛争に加担する中国の外交方針を批判し降りたことは大きな話題になったことで覚えている人も多いはず。
他にもチベット問題への関心が深いリチャード・ギアもボイコットを訴え、歌姫Bjork(ビヨーク)も先の上海でのコンサートステージ上で辛辣に批判の声を上げた。
世界の首脳を開会式に招聘したもののいくつかの国の首脳へのそれぞれの国内からの批判を受け、戸惑い(米、独、仏、日)、欠席(カナダのハーパー首相)という事態。
モスクワ五輪のボイコット時に較べれば穏便な扱いとはいえ、その内実の深刻さはそれ以上ではないか。
ここに「五輪取材ハンドブック」という文書がある。
「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」というニューヨークに本部を置く人権NGOによるものだが、ここではタイトルにあるように、北京五輪を取材する記者、スポーツジャーナリストへ向けてのガイドブックだ。
ここの左メニューの[DOWNLOAD PDF JAPANESE]からpdf文書がダウンロードできるので、一読をお奨めする。
ただ競技の取材に関するガイドブックというものではなく、北京五輪開催へ向けての中国当局者の姿勢、IOCとの関係を分析し、また最近までの五輪関連取材に伴う、様々な妨害の実態を紹介しつつ、中国当局者による人権無視と、自由な取材を拒む暴力的な弾圧を暴き、取材記者への適切な注意勧告と、その対策への有用なアドバイスという内容となっている。
トリノ、アテネ、ソルトレーク、シドニー、長野、アトランタ、最近の五輪開催で、果たしてこのような文書が注目を浴びることはあったのだろうか。寡聞にして知らない。
最近の報道では北京に在住する5人に一人は警察、公安関係者で占められていると言われる。まさに警察監視国家。
物言えば唇寒しの、「1984年」(ジョージ・オーウェル)を地でいくようなものとなっている。
確かに、今回の五輪の開催へ向けての緊急防衛態勢であるのだろう。地方から軍部、警察関係者、そして雇われた“ならず者”などを総動員してのもの。
よく言われる「平和の祭典・オリンピック」とはおよそかけ離れた状況の下に開催されようとしている。
今日は「人権」状況から少しだけ北京五輪の背景を眺めてみたが、五輪をめぐる異常な事態はそれだけではない。
ほとんどすべての競技の決勝が、現地時間の午前に予定されていることを知っているだろうか。かつてこんなことはなかった。
いすれ稿を改めてそうした異様な状況の背景を考えてみたい。

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