工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

成形加工における治具づくり、1つの考え方(3)

サンプル


今朝はこのところ忘れかけていた快適な目覚めだった。
朝食時、寒暖計を見やれば25℃。
日中は晴れ上がり気温も上昇したものの凌ぎやすく、秋の本格的な到来を思わせた。
来週はもう秋分と聞けばこれも当然ではあり遅きに過ぎたというべきか。
もう秋は来ないのかと思わされるほどの長い夏だったからね。

さて、治具つくり、4回目となるが、一応はこれで終わりとする。
日を置くことなく、うちで作ってきた倣い成形のサンプル、および倣い成形に使われる刃物などを補記として、紹介したいとも考えている。
なお、これは言うまでもなく倣い成形の1つのケースに限定しての解説でしかない。
しかし治具つくりを考えていく時に求められる基本的な要件については活用できるところも少なくないと考えている。

さて、これまで家具制作における倣い成形の基本的な考え方、その型板作りの基本、および、固定するためのクランプの事などを記述してきたところだが、最後になる今回はこの型板を倣い成形の治具としてまとめあげる段階について考えていく。

line

〈Wバークランプ、倣い成形治具〉
完成形は画像のようなものになる。

この場合の被加工材は床接地面の底が基準面になる(対する上はまだカットしていなかった。甲板の厚みが未定であったため)。
残り左右の2面をこの型板で倣い成形することになる。
以下、順を追って解説する。


倣い成形治具

  1. 型板にまず基準面のストッパーを固定する。
  2. 型板、左右辺に最初に作って置いた型板(1)をぴたりと当て、それぞれ反対側のラインを書き写す。
  3. 倣い成形する順番を決めねばならない。
    これはどちらでも良いのだが、基準面として使いやすい方(直線部分が多い方)を1番目とするのが良い。
  4. クランプを固定するための部材を作る。
    • 厚みは被加工材より10mmほど薄いものを使う。
    • この部材は前後2ヶ所に設けるが、これは被加工材の基準面ともなるので型板の局部曲面と凹凸の関係で成型しておく(これはさほどタイトに作らねばならないというものではなく、被加工材を置いた時に、2点で然るべき位置に安定的に固定されるものであれば十分)。
    • もう片方も同様に成型するが、このラインは墨線から数mm幅広くなるようにしなければならない。数mmというのは仕上がり寸法に対し、どれだけの切り代を残してプレカットするかに関わってくる。
    • したがってあまりタイトにすると2段階目の切削で、必要とされる残部が足りなくなってしまうというリスクがある。
    • この2つの部材を型板に固定する(両面接着テープの力も借り、4ヶ所ほど十分なサイズの木ねじを使い固定,接着する)。
    • 型板に固定されたこの2つの部材の中央部にクランプのためのボルトを埋め込むのだが、このボルトを手で差し込むむことのできるほどの堅さになる孔を貫通させておく(うちでは3/8=3分のボルトを使っている → ノブとの関係)。
    • 型板裏側にこのボルトの六角頭を埋め込むための六角形状の孔を彫り込んでおく。
      ボルトを空回りさせないための処置(合板なので比較的簡単にできる)。
  5. 押さえ板を作る
    • 2つの被加工材をしっかり固定できる長さと幅のものであれば良い
    • 中央部にボルト径よりやや大きな孔を開けておく。
    • 裏側中央部は締め付けた時に端末がしっかりと固定されるように中隙に加工しておく
    • 被加工材を固定する部分には滑り止めのための荒いサンドペーパーを貼り付けておく。
  6. 型板に被加工材が置かれる数カ所に押さえ板同様に荒いサンドペーパーを貼り付けておく。

およそ以上が倣い成形治具の制作である。

これは以下のように使用される。
〈Wバークランプ、倣い成形治具の使い方〉

  1. 用意するもの
    ・型板
    ・被加工材2枚
    ・押さえ板2枚
    ・ボルト
    ・スプリング
    ・座金
  2. ボルトを型板裏側から貫通させ、六角頭を彫り込んだ箇所に然るべく納め、上部に覗いたスクリュー部分に押さえ板を跳ね上げさせるためのスプリング、押さえ板、座金の順に通し、最後にノブを取り付けておく。
  3. 被加工材2つをそれぞれの側に置き、固定させるのだが、まずは第1段階の成型を行うのでそちらの方の基準面をしっかりと位置決めし(画像の場合では左側)、型板基準面に押さえ付けながら2枚の押さえ板をノブで締め込み、固定する。
    ボルト、ノブには注油を、座金にはグリスを塗っておくと良い
  4. これでいよいよピンルーター、あるいは高速面取盤で倣い成形するための準備ができる。
  5. これらの機械の操作については本稿で詳述すべき対象ではないので省略するが、過度に怖がらずに、ノブをしっかりと両手に持ち、センターピン、あるいはセンターガイドに型板を強く押しつけ、切削パワーに抑え込まれるのではなく、作業者が御するという関係に立ち、しっかりとコントロールすることが肝要。
  6. 1枚の第1段階加工を終えたら、これを反対側、第2段階側に固定させ、新たな被加工材を第1段階側に固定させる。
  7. それぞれ切削加工する。これの繰り返しとなる。

そうしてできたのがTopの画像。
画像ではテクスチャーが分かりにくいが、そのまま#240ぐらいからサンディングできるほどの高精度な肌に仕上がっている。(最も凹の部分などは逆目であるにも関わらず、である)

line

以下、いくつか補足的なことを上げておく
ノブのことだが、一般に国内で入手できるノブはあまり良いものがない。
画像のものは米国仕様のものだが、いわゆるスター型とは異なりI型というのか、しっかりと握ることができる良いタイプで好んで使用している。
米国仕様のいわゆるインチネジでJIS規格外ではあるが、国内でも「ウィットネジ」という規格で流通しているので問題はない。

スプリングは必須のものではないが、数多くの加工材を切削して行く場合、こうした補助的なパーツも疎んじることができない。
ノブを緩めると押さえ板はこのスプリングの跳ね上げ力でノブに付いて上がるので、固定、解放の操作がスムースにいく。
作業はあくまでも快適に、合理的精神で、というのが基本。

▼型板のセンターガイドに当たる側面は高精度に仕上げる必要があることは既に述べてきたところだが、ここはさらに摺動性を良くする、ダストが排除されやすくする、などのためにCRCなどの潤滑油を与えておくと良い。

▼ここではWバークランプということで解説してきたが、これはトグルクランプ、あるいは先に紹介した庄田ルータークランプでも同様に用いることのできる考え方でもある。
もちろんそれらの場合にはクランプ固定の部材の厚みは適切に合わせられねばならない。

▼いずれにしろ、倣い成形は様々な手法が考えられるが、ここで記述してきたことは基本的な考え方として共通すると思われるので、そうした前提で考えていただければ幸いである。

▼なお、先のacanthogobiusさんからの質問にあった「被切削材のどこを、どう押さえるのが効果的か」という問いであるが、これは被加工材の長さ、ボリュームに規定されるという単純な言い方しかできないが、要するに型板から被加工材が動く、ずれる、という事の無いように配慮するということになるだろう。
長いものであればそれにふさわしく2ヶ所ではなく、3〜4ヶ所と増強していくこともある。
つまりは「どこを、どう押さえる」というよりも切削される部位は均等に押さえる必要があるということになろうか。
また、押さえ板のところに滑り止めの処置(サンドペーパー貼り付け)をするのは言うまでもない。

▼同じく質問にあった「危険回避」の問題だが、以下のような留意点を挙げておこう。

  • 型板と被加工材の密着はとても大切。絶対にばたつかないような固定を
  • 型板倣い面は高精度に仕上げ、滑らかな摺動ができるようにしておく
  • 被加工材の押さえはしっかりと。強固に抑え込むこと
  • ピンルーターにしろ、高速面取盤にしろ切削が適切にいかない大きな理由の1つが、型板とセンターピン、センターガイドとの密着性が弱く、制御し切れずに暴れてしまうという問題が起きやすい。ぐいぐいと密着させつつ運行させるのがキモである
  • 1度の切削負荷をできるだけ少なくすることは基本中の基本。
    ただこれはその前段階での帯ノコなどでの切削の精度に規定されるわけだが、過度にこれを追求して、結果、残すべきラインの内側まで切り進むようなことは避けねばならない
  • あらゆる木材加工工程において自覚しなければならないことになるが、被加工材の木材繊維の配置、流れ(いわゆる木理)を鋭く見抜き、順目、逆目の関係性を自覚しつつ、切削刃物の運行を負荷との関係においてコントロールしつつ運行することが肝要。
    制御するのは機械ではなく、あくまでも作業者が行うという、ハンドメイドの優位性を自覚しつつ臨むと言うことが重要

ここに上げた事柄はいわば木材加工における基本中の基本ではあると思われるが如何だろうか。

なお、最後になってしまったが、今回紹介した3つのタイプの使い分けについても記述しておこう。
これまで解説してきたところから、それぞれの特徴もお分かりだろうと思うので、それに準じて使い分けすれば良いのだが、ここで整理すれば‥‥。

line

〈庄田ルータークランプ〉
ピンルーターの場合のようにトグルクランプの構造上の問題で回転機構に干渉する場合、
あるいはまた、より強いクランプ力を確保するには、このルータークランプは作業者の願いを叶えてくれる良い選択となる。

〈トグルクランプ〉
簡便で軽快な切削加工には、使いやすいものである。
いくつものタイプがあるので使い分ければよい。

〈Wバークランプ〉
切削面が左右両面で必要とされる場合、このWバークランプはそのホールド力の強さ、そして左右両面を1つの治具で並行して順次行えるという合理性は高く評価されるだろう。
コスト的にもボルト、ノブがあれば自作できるものであり望ましい。

以上でこの論考を終えることにするが、次回補記としていくつかの型板のサンプル、および成型に用いる刃物なども画像中心に紹介してみようと考えている。
読みにくい文章の解読を強いてしまい、お許しいただきたい。

本稿、これまで数回にわたってupしてきたが、意外にもアクセス数にその関心の強さが表れていた。
木工関連記事に限定しても、通常の3〜5割増しのページビューをカウントしている。
読者の方々、とてもまじめで真剣な眼差しが感じ取られ、それは痛いほどだ。
ありがとう。


〈本稿の構成〉
成形加工における治具づくり、1つの考え方(序)
成形加工における治具づくり、1つの考え方(1)
成形加工における治具づくり、1つの考え方(2)
成形加工における治具づくり、1つの考え方(3)

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 詳細な解説、ありがとうございます。
    私の不遜な希望をひとつ聞いてください(笑)
    それは、型板の汎用性についてです。
    今回の記事を読んで、artisanさんが一つの型板に
    いかに手間を掛けて作っているか分かりました。
    しかしながら、というか、だから、というか
    一つの型板を異なる大きさの部材に適用できないかと
    思うのです。
    私のようなアマチュアの場合は尚更です。
    安全性を考えると、今回の記事を読んでも各部の確実な
    固定が必要であることは分かります。
    しかし、部材の大きさが変わると、各部ストッパーの位置が
    変わってきます。
    この考えはやはり危険なことでしょうか?
    ご意見、お聞かせください。

  • acanthogobiusさん、いつも考えさせてくれるコメントをありがとうございます。
    仰る事は理解できます。汎用性をもたせたいが、ということですね。
    >アマチュアの場合は尚更です
    とありますが、それは逆で、職業的であればこそ追求したいものかもしれず、そうでない単品製作の場合ではじっくりと個別に作るのが本道では?
    混ぜっ返す積もりでは無いですよ。
    しかしいずれにしろそうした対応も必要となることは理解できます。
    また事実、私もそうしたことをしています。
    あえて説明する必要もないところですが、基準面の位置を改変させることで幅の異なる加工ができますね。
    あるいは厚み変化の対応はより容易にできます。
    ここで注意しなければならないことは、改変した場合でも、堅固に固定されるように新たな基準面つくりで配慮することですね。
    なお、記述がちょっと冗長になってしまったことで、何かやっかいな作業のように捉えられているとすれば、それは誤解です。
    一連の過程は決して難易度が高いものではなく、倣い面さえ高精度に作れば、後は単純で簡単な作業でしかありません。
    1つ1つを南京鉋、反り台鉋、あるいはヤスリで成形していく工程と較べれば、一連の過程ははるかに容易で仕事も早く、かつ圧倒的に高精度な仕上がりが獲得できます。
    これらは多くの木工所で当たり前のように日常的に行われている作業の中の同じような1つの工程でしかありません。
    こうした手法(マシンでの倣い成形)を採用していない、いわゆる木工家と言われる一部の方々にとっては、未知の世界のことなのかも知れませんが、体験されることなくその優位性を知らないというのはとても残念なことです。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.