工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

大相撲という名の前近代(続)

(承前)
昨日、NHKは大相撲中継放送の取りやめを発表。(読売新聞
福地茂雄会長は改革への道筋が未だ明確でない、との弁。ただし決して制裁的な意味合いではない、としている。
一場所の放映権料が5億円、年間で30億円という金額を考えれば相撲協会にとっては経営上も影響少なからぬものがあるだろう。
一方内部留保は30億円とも言われているので、さほどの影響はないか?
NHKの決断は重いものがある。NHKも内部生え抜きの会長であれば、こうした決断には至らなかったかも知れない。
様々な不祥事への組織再生へ向けたものではあったが、外部(アサヒビール会長職)から招聘された会長だからこその英断であったとも言えるだろう。
さて、ちょっと話は変わるが、皆さんは演歌はお好きでしょうか。
ボクはほとんど聴かない。TVでうっかり流れてくると、慌ててチャンネルを変えてしまうほどのアレルギー体質。
しかし何故か、美空ひばりは好きだった。いわばボクにとっては美空ひばりは日本のDiva(歌姫)のような歌手だった。
なぜこんな話題に振ったかと言えば、彼女の歌手人生にはたびたび闇社会の陰が顔を覗かしていたことは良く知られた話しだったから。
ボクはそうした噂を知りつつも、彼女の歌声に託し戦後日本社会の苦難と、喜びを感じ取っていたものだ。
芸能界とは元々そうしたもの(暴力団との繋がり)と見なしていたからね。そこにさしたる違和感はなかったということだ。
ボクはリベラリストを自認して憚らないのだから、したがって暴力団のような存在は否定すべきとというのが合理的判断であろう。
しかし現世の日本社会に生き、よりよい未来を志向するにしても、いくつかの意味において暴力団を簡単に壊滅できるものではないとの認識に立ち、また、いわばそうした日本社会の底辺と繋がっている芸能社会であればこそ、人々の魂を揺り動かし、歓喜の世界へと誘う歌姫の存在があるというように考えている。


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さて、話しを大相撲に戻そう。
2007年、時津風部屋の15代時津風親方によるビール瓶で弟子をなぶり殺すという事件は記憶に新しいが、様々な不祥事を抱え込む大相撲にあって、内部攪乱者のごとくに吊し上げられ、追放へと追いやられた朝青龍問題は、いわば相撲界の核心的な問題を糊塗し、隠蔽するために生け贄にさせられたものと考えられなくもない。
例えそれが本人の意志(「オレが辞めて済むのなら、さっさと辞めてやろうじゃないか、」という)であったとしてもだ。
朝青龍問題から見えてきた大相撲における困難だが、この度の野球賭博問題で一気にその問題の核心が露わになってきたようだ。
まず野球賭博について考えて見よう。
ボクはギャンブルは一切やらないので賭博そのものの実相を語る資格はないかも知れない。
花札もやらないし、パチンコもやらない。賭け麻雀もやらないし、宝くじも買わない。
それらのうち合法ではないとされる賭博が、果たしてどこまで罪悪としての重さがあり、指弾されねばならないのかということについては良く分からない。
国が胴元のサッカーくじが合法で、賭け麻雀がなにゆえ違法であるのかがボクには到底理解できない。
今回の相撲界の野球賭博問題での制裁が、賭けた金額の多寡であるとか、常習性があったのかどうかというところから判定されたところからも、極めて曖昧な基準での裁定であったようで、つまり賭博という行為を日本の法制度がどう捉えるのかというのは判例に則したり、あるいは司法当局による恣意的な要素により左右されると言うことも避けられないようで、なかなか判然としない。
ただ問題は暴力団(なぜか、今回は反社会的組織、などと持って回った呼称で語れられているのがおかしくてならないが)との密接な関係をそこに見ることができるということだ。
今回の相撲協会と、特別調査委員会は、野球賭博ではあるものの、外部の暴力団との関わりを証明するものはなかった、との調査結果を明かしているが、これは真っ赤なウソだろう。
そんな訳がない。胴元は明らかに暴力団組織。
メディアも相撲評論家と言われるTV芸者も、皆均しく驚きの声を上げていた。
おいおい、冗談じゃぁない。あんたたち本当に知らなかったの ?! 。
知らないというのであれば、それは職務怠慢であるか、取材力が全く欠けているか、ジャーナリストとしての資質に欠けるか、あるいは知っていても相撲協会との腐れ縁から口にチャックを掛けているのか、あるいはそれら全てなのか。
突然に正論を語りはじめ、偽善者然とする彼らには反吐がでる。
ボクはこの大相撲界を汚染させている野球賭博、暴力団との黒い関係については、さほど意外感はない。大相撲をそれなりに知る人は同様ではないか。
つまり大相撲という存在様式そのものが、あらかじめそうしたダーティーなものを孕んだものであるということだ。
このところ「タニマチ」という隠語も今や広く知れ渡ってきたが、このタニマチに暴力団の陰が見え隠れしているという。
これはボクの認識では相当昔からあったのだろうと思う。
そもそも地方巡業などはその地域の暴力団組織が深く関わっているというのも良く知られたところであり、そうした関係から、力士がギャンブルに手を染めるというのは比較的一般にあり得るというのが残念だが実態であるようだ。
これは彼らの特異な日常生活にもその要因があるようだ。
つまりは朝早く起きての練習、身体作りを終えればちゃんこをたらふく食べて、後は寝るだけという、身体をもてあます若者にとってはシンプルに過ぎる生活様式だ。
ここにタニマチからのご祝儀、ごっつぁん体質からの余剰な収入と併せれば、市民社会と隔絶された閉鎖社会ならではの悪弊もはびこるというのも頷ける話しではある。
相撲協会の構成員が上から下まで力士で占められている現状を考えれば、Topの理事長から幕下まで、多くの力士がギャンブルに手を染めている(あるいは“いた”)だろうことも想像に難くない。
ただ今回は琴光喜が野球賭博に絡み恐喝されるという刑事事件として露見したために、世情を騒がせる結果となったというところだろう。
これらの問題は法的には上述したように、やや曖昧さは残るにしても法の支配の下で裁かれることになるだろうが、この賭博問題が相撲界に深くはびこり、暴力団との蜜月がどの程度まで進んでいたのかが問われるだろうし、そのことを通して、大相撲と日本社会の関係性を再定義する必然性まで立ち至らざるを得ないのではないかというのが現段階でのボクの所見だ。
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ただ、この問題は確かに特異な存在である大相撲という世界での問題ではあるものの、すぐれて日本社会の前近代的遺制を映し出した問題であると言う視点が重要なのではないか。
近代社会の市民という認識の有無に関わらず、ボクたち成員によって構成される社会は、大相撲というダーティーな側面をも包摂したものであるとの認識ができるのかどうか。
上述した美空ひばりの例にもあるように、日本社会に隠然と、あるいは顕然と現れては消え、絡みついた紐を解きほぐせば、暴力団の組織へとたどり着いてしまう、といったような権力装置の一環として、はたまた汚れ役として、あるいはまた阪神淡路大震災のような緊急時には炊き出し部隊として、ボクたちの日常、非日常の世界に様々な顔をしてべったりと張り付いているのが、そうした闇社会なのだ。
いやいや、こうした前近代とも言える日本社会はやはりおかしい、そうした前近代的遺制を排除してクリーンな近代社会を模索しよう、という選択も当然あり得るだろう。このようなことが問われているのかも知れない。
ただはっきりしていることはある。
大相撲を国技として定義するところから、この問題を表層的に語るのは止めてもらいたい。
問題解決への可能性を封じてしまうだけだろう。
それでもなお、国技ということにこだわるのであれば、日本社会というものがいかに前近代的なものであるかということを対外的に宣明することになるだけだ。
暴力団とのハネムーンを続ける組織を公益法人と認定し、これを支え続ける日本政府、そしてこれに税金を注ぎ込んで恥を知らぬ市民ども、というわけだ。
あえて結語するとすれば、(国技などと言う定義付けを廃し)巡業団体であるとの再定義をするところから、大相撲は息を吹き返し、荒ぶる魂と身体性は輝き、魅力ある力士により再生への道が切り拓かれていくのではないだろうか。
大相撲には似つかわしくはない、国技などと言うくびきから解き放ってやるということだ。
暴力団との関係から言えば、彼らもまた日本社会に隠然として存在するわけで、時として排除され、また時として権力に都合良く使われ、日本社会の暗部を巧妙に隠す社会的存在としてあり続けるだろう。
日本社会に差別と、格差と、権力構造がある限りにおいて、彼らもまた最底辺の社会を構成する成員の存在様式として在り続けるのだろうから。
お部屋のゴミを片付けるというようにはいかないのだから。
つまり日本は表層においては近代国家としての装いをしているものの、基底においては未だ前近代的要素を大きく抱え込んでいる社会だということの認識が必要だと言うことは、この角界汚染の問題を通して少し炙り出されてしまったのかな、などと考えている。
今夜は無性に美空ひばりの歌が聴きたくなってきている。
羊の歌――わが回想 (岩波新書 青版) (岩波新書 青版 689)最近、高校生の頃に読んだ「金と暇があれば賭け事に走るというのは故事にも言われること」
■ 特集「角界汚染」(読売新聞)

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