工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

コンパクトルーター(トリムルーター)機種比較

はじめに

先のFestool トリムルーター〈MFK700〉に関しては、ある読者から「購入する予定でいたところ、この記事で思いとどまってしまい、どうしてくれる?!」(笑)といった内容のメールがあり、もう少し詳細に比較検討した方が良かったかなと、いささか反省しているところです。

結論的にその評価が変わるものでは無いと思いますが、私自身の理解を深めるためにも、さらに考察を加えていきます。

なお、序でですので、マキタなど他社の同カテゴリーのトリムルーターも、比較検証することにしました。

取り上げるのは以下のコンパクトルーター(トリム ルーター)です。

  • Festool:MFK 700
  • Dewalt:DW611PK
  • Porter Cable:450
  • マキタ:3709
  • マキタ:RP0910(日本限定:8mmルーター)
  • Makita:RT0701CX7(米国限定、プランジ機構付き)
※ なおマキタRP910は、ミドルサイズのルーターというカテゴリーに入るもので、本来今回の対象には入れるべきでは無いかも知れませんが、マキタでは8mmを装着できるトリマーが無く、ミドルサイズの8mmルーターとして、あえて対象としました。

仕様の比較対照

モデルMFK 700DW611PK450PKMakita
3709
RP0910RT0701
CX7
メーカーFestoolDewaltPorter CableマキタマキタMakita
公式ページMFK700DWP611PK450PKマキタは製品単位でのページがないRP0910RT0701
CX7
イメージfestool.mfk700dewalt.dw611portercable450pkmakita3709zmakitaRP0910makitart0701cx7
電流(A)67749.56.5
消費電力720w1-1/4 Hp1-1/4 Hp500w900w1-1/4 Hp
スピード(rpm)10,000-26,00016,000-27,00027,00030,00027,00010,000-30,000
コレットサイズ1/4"、6、8mm1/4"、6,8mm1/4"6mm6、8mm1/4"
重量1.9kg1.9kg1.9kg1.5kg3.3kg1.8kg
プランジ機構ありありありあり
ダストコレクター優秀ビス締め付け
、
改良を望む
同左ありあり
LED照明無し2灯無し無し無し無し
ユニバーサル
テンプレートガイド
××
特徴エッジトリミングにおける水平Baseを備える。


Base中央部へのへの視認は困難
。

アタッチメント等の装着精度はPerfect
Fixと、Plunge
両対応。


モーターマウント部のリング(スクリュー駆動)で昇降。
D型ベースなど付属


集塵アダプタの装着にやや難あり
DW611と双子のOEM関係
。

変速機能は無く固定
ラック&ピニオン機構。

多様なベース展開
8mm対応
のミドルサイズルーター

Quick & Fineアジャスト
Fixと、Plunge両対応
。

ラック&ピニオン機構
。

オプションとしてユニバーサルテンプレートガイドのためのアダプター
定価$525$350$332¥25,488¥34,500$318
実勢価格(USA amazonなど)$525$156$170$133
FWW誌レビューFWW誌 Tool GuideFWW誌 Tool GuideFWW誌 Tool GuideFWW誌 Tool Guide
FWW誌 Tool Testなどでの評価フラッシュトリミングを除き、ビットの運行が視認不能、評価は低いBest Overall

インレイなどに最適、
コンパクトで片手操作が容易
DW611と似ているが、LED無し、固定速度など、評価は良くないラック&ピニオン機構以外では低い評価
取説 ManualManualManual取扱説明書

このBlogの幅などの制約から、必ずしも網羅的な仕様は掲載できませんが、比較対象としては概ねご理解いただけるでしょう。

以下、Specからもう少し整理して視ていきます。

コレット

8mmコレット対応のものは、マキタRP910を含め、Festool・MFK 700と、Dewalt・DW611PKの3機種。

Porter Cable・450PKはDewalt・DW611と相似形(OEM生産)であるにも関わらず、なぜか1/4”のみ。
またマキタRP910は8mm対応とは言え、明らかにこのクラスを越えるスペック、およびガタイの大きさがあり、日本人の体格からして片手で操作できるものでもなさそう。

サム・マルーフのビデオを視たり、私の知人でもある米国人木工家のD・Youngの二の腕の太さを視れば、この程度は片手での操作になるんでしょうが 笑

ベース

FixedとPlunge、双方対応がDewalt・DW611PK、Porter Cable・450、Porter Cable・450、マキタ・RT0701CX7

これは、トリミング作業、面取り作業などではFixed Baseが活躍し、Plunge Baseを装着することで、インレイ、彫り込みなどに対応させる、という、このクラス、コンパクトルーターならではの拡張性と言えるでしょう。

因みにマキタのトリマーは多様なベースが用意されているようです。

Dewalt DWP611は、真円の他、D型様の透明ベースが標準添付。安定した水平保持に寄与します。

マキタ・RT0701CX7ですが、6mmトリムルーターでは唯一この機種がPlungeベースを備えつも、6mmコレットのみというのは、残念です。
しかも、米国限定のもので、日本のマキタでは扱いがありません。
(因みに8mmルーター、マキタ・RP0910は米国での扱いが無いようです。この辺り、良く分からんな?)

彫り込み深さ設定

Festool・MFK 700 はQuick、Fineともに良好(深さ調整ロッド上部のノブ回転で0.1mm単位での設定可能)
Dewalt・DW611PK、同じくQuick、Fineともに良好(Fineは深さ調整ノブ下部のノブ回転のみで、目盛りの刻みは無い)、Porter Cable・450も同様。(私はこのノブにマーキング刻みを入れ、回転数から移動距離を読み取っている)

マキタ・RP0910もQuick、Fineともに良好(Fineはスクリュー回転、目盛りは不明)
マキタ、残余のものは Fineはラック&ピニオン機構(私の経験上、移動、設定はさほどメカニカルな良いものでは無い)

LED照明

備えているのは、ここではDewalt・DW611PKのみ。
マキタでは、この種の電動工具へのLED搭載率は高いはずなのですが、なぜか、この3種共にありません(私が見いだせていないだけなのかな)

Festool・MFK700

前回、詳しく触れたFestool・MFK700ですが、あらためて繰り返すまでも無く、機械精度、完成度、洗練性など、圧倒的な秀逸さを有しているものの、やはりフラッシュトリミングのために特化したものと考えた方が良いでしょう。

ビット運行がアルミベースで隠され、視認が利きませんし、また片手で操作するのも重量、および重量バランスから困難です。

総合評価・Dewalt 611PKの秀逸さ

以上ですが、導入にあたっては、これらを比較対照し、目的とするところから選ぶことになるでしょう。

購入予定だったという読者には水を差す結果になってしまったかもしれません。

ただフラッシュトリマでの作業工程が多いのであれば、Festoolも賢い選択ではありますので、ご自身の業態に引き寄せ、良い選択をして欲しいものです。

私個人の評価としては、多くの項目で上位の機構とスペックを有し、かつ価格も廉価である、Dewalt 611PKをお薦めしたいと思います。

FixedとPlungeベースがそれぞれ標準装備され、かつマキタの8mmルーターの働きまでカバーする力量を持っています(出力は、1-1/4 Hp vs 900w、ですので、ほぼ変わりません)。
むしろ重量は42%軽く、取り扱いははるかに軽快です。

私は購入後、3年余が経過しますが、今ではしっくりと手に馴染み、快適に使っています。
この機種については、購入後間もなくレビューを上げていますので、そちらを参照ください。

トリマー DEWALT〈DWP611〉という優れもの>

コレット問題の解決:Dewalt 〈DWP611〉(再び)


ところで、Dewaltの日本国内での展開ですが、正規代理店が展開されていることはご存じだろうと思います。
詳細は不明ですが、ブラック&デッカーの代理店がDewaltも扱っている、という事業内容のようです。

これは米本国での統廃合がそのまま反映しているのでしょう。
デルタ社も、Dewalt社も、Porter Cable社も、この〈Black & Decker〉社の傘下にあります。

15年ほども前になりますか、埼玉県下を中心に店舗展開している「ドイト」というホームセンターが、この黄色いボデーのDEWALT商品を積極的に扱っていた時期がありました(今は不明)が、その供給元がこの会社だったのでしょう。

取り扱い商品のラインナップは、充電電動工具がメインで、こうしたトリマーなどの扱いはありません。
したがって、この会社を通した購入はできないようです。
また当然にも保障対象にはならず、修理受付もしません。

マキタの国内外の経営戦略の見えにくさ

このトリムルーターの分野をみた限りでも、Makita USAと日本国内では異なる商品展開をしており、その営業展開、および設計開発指針が良く分かりません。

Dewaltのような、Fixベースと、Plungeベースを取りそろえた[コンパクトルーター]があるかと思えば、一方、日本で展開している8mmルーター〈RP0910〉のUSA展開は無い。

6mm限定とは言え〈RT0701CX7〉などのコンパクトルーター機能を強化した製品などは、マキタファンとしては魅力の商品だろうと思われますが、日本国内では展開が無い。

もちろん、日本国内での市場販売となれば、経産省の安全認定を受けねばならず、相応のコストも掛かるでしょうが、売り上げから得られる利潤でカバーできることなど素人でも分かります。
恐らくは他の理由があるのでしょう(ご存じの方がいれば、ご教示ください)。

マキタを愛用して止まない木工職人は多いはずですので、ぜひ国内展開をプッシュしてやってください。

あとがき

表のデータは、各メーカー公式サイト等から参照したものですので、間違いは無いと思いますが、記述上のエラーもあるやも知れず、問題があれば指摘してください。

今回の投稿は少し疲れました。
各機種データの収集、レビュー記事の確認、Web上での表作成の難儀、等々、私のような個人の職人がやる仕事じゃ無いです。

日本ではFWW誌のような信頼に足る木工関連マガジンはなさそうですので、こうして名も無く、冴えない、ヘンな1職人が、Webの片隅で、こっそりと奮い立ってやるしかないようです。

誰に依頼されたわけでもなく、Blog運営上と言いますか、公開されるページの運営管理責任者として、こうした作業を負うのも、ある種当然の営為というところでしょうか。

ただ、関係機関、メーカーとの関係などのない、インディペンデンスとしての立場からの評価ですので、信頼していただけるものと信じます。


余談。
ところで、国内では木工関連のマガジンって、現在はどうなっているのでしょう。
本来であれば、こうした記事などは関心も高いものがあると思いますので、そうした公刊物での公開が望ましいわけですが。

FWW誌ほどとまでは言いませんが、アマチュア向け、プロ向けとして、数種展開されてもおかしくはない。10,000部ほどは見込めるのでは無いのでしょうか。(甘い?)

ただ、日本の雑誌は、こうした記事になると、広告主との絡みが出てきて、忌憚の無い記述が抑制される可能性は大きいかも知れないですね。

その点、FWW誌は立派です。広告主からの圧力も当然あるでしょうが、自律した経営、編集方針で貫かれているような感じです(実態は良く分かりませんが)。

あるいはまた、木工家、家具職人による、独自のプラットフォーム、ネット上での〈木工フォーラム〉でも作るのも一興かと。
数名の世話人を置き、会員を募り、そうした方々に積極的に介入、投稿いただき、様々なデータを公開、共有する。

決して不可能な事業では無いと思われます。米国などでは様々なフォーラムがあるようで、活発にディスカッションが交わされているようです。

hr

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