CLAROウォールナットで李朝棚を
濃色材で李朝家具という冒険
ブラックウォールナットを主材とし、クラロウォールナットを正面扉に用いた二層の〈李朝棚〉。
納品後に許諾が得られればあらためて紹介させていただくとして、今日の画像は斜め上からのショット1枚だけでご容赦を。
ボクは起業当時からこうした李朝棚と言われる飾り棚を多く制作してきたが、そのほとんどはミズナラなどの国産白木材に拭漆という構成。
国内ではかつて黒田辰秋氏が欅の拭漆で数々の美しい李朝棚を制作していたことは良く知られ、その後多くの木工家がこれに続いて同様の構成で優れた李朝棚を作ってきているように、このような構成が一般的。
一方、海外の濃色材を用いての李朝棚というのはかなり異色。
デニス・ヤングという優れた木工家が来日(帰日といってもおかしくはないが)し、最初に定着したのがたまたまうちに近いところであったということもあり、交流がはじまるのも必然だったのだが、彼は米国で制作したいくつかの家具を持ち込んできており、その中に李朝棚が1つあった。
それが何とマホガニーで作られていたので軽い驚きがあった。
それは決してキッチュなものではなく、古び、濃色を強めていたマホガニーは独特の風格があり、李朝の侘びに繋がるものとして印象的だった。
既にその時、ボクもホンジョラスマホガニーをかなりのボリュームで在庫していたこともあり、意を強くして李朝二層棚などをいくつも作り、それぞれ顧客も喜ばれたものだった。
CLAROウォールナットとの出合い
一方、同じ頃クラロウォールナットの巨木を入手し4,5年経過(天然乾燥など)した後に、様々な家具を制作していたのだが、ある展示会場でクラロウォールナットの2mを超える1枚板テーブルを出品した時のこと。
これに目をつけたのが、地元の材木屋の経営者という人物だった。
構造材(杉、檜)を商っている会社の会長で、当然ながらと言うべきか、このクラロウォールナットは見知らぬ材種だったようだが、檜の良木を主材とする新築されたお住まいに、このクラロウォールナットのテーブルを置きたいと言い、とても喜んでくれたものだった。
「私は材木屋を50年やってきたが、この樹は初めて見る。しかしこの材の良さというものは自分でも良く判るから、買っておく」と言い残してくれたのだった。
材種はその土地の植栽により固有の様々な印象を持ち、そこに住む人々の木というものへの概念を形成していくものと考えられるが、上の2つの事例は、そうした固定的な概念を超え、良木というものはユニバーサルというのか、ある種の絶対的な価値を持って人々の美意識に訴えかけるものであることを教えている。
もちろん、その材種のルーツ、植栽、物理的特性、あるいは社会的な用途などといった知見を備えるということは、より深く親しむ上で必要なツールかもしれないが、そんなテキストが無くたって、美意識を持つ人々には十分に訴える力を持つ。
ボクたち制作者の場合は、それに加えてその材に自ら刃を入れ、木理を産み出し、木の特性と対話し、必要な表情を獲得するという主体であるということを考えれば、何と幸せな職業なのかとさえ思ってしまう(ここは大きな勘違いもあったりするわけだが、まぁここではそういう事にしておこう)。
杢こそCLAROの華
そして今回は上述のクラロウォールナットの巨木を製材した際、1,200mmまで挽くことができる製材機にも、なお収まらない根回りの部分を泣く泣くチェンソーで切り落とした部位を正面に用いることにした。
この時の原木は末口1mを越え、長さも2mを越えるボリュームだったが、比較的素直な木理が大部分で、クラロウォールナットの1つの特徴でもある、縮み杢、瘤杢などの様々な杢は根回り部分に集中し、したがってこの時はチェンソーでハツッた残りの方にこれが埋もれていたというわけで、今回の活用は製材のあの時の悔しさを濯ぐのに十分なまでの見返りとなった。
数年前にこの塊を単板に再製材し、捨て置いたのだったが、今回初めて日の目をみるということになった。
ご覧のように見事な縮み杢、瘤杢が表れている。
これで李朝棚を構成するという、かなり大胆な試みとなった。
全ての部位をクラロウォールナットでというわけにはいかず、駆体はブラックウォールナットとなったが、むしろこれはこれで良かったようだ。
全てをクラロウォールナットとなると、かなりくどい感じに陥っただろう。
駆体の方はただブラックウォールナットとは言っても、原木から国内で製材管理された、特上のグレード。
そうでなければ、あまりのちぐはぐさでCLAROは浮いてしまっていただろう。
つまり国内で製品として流通している現地乾燥材は、本来のブラックウォールナットとは似て非なるもので、元の色調は全て損なわれてしまっているからね。
本来李朝の家具というものは、決して良材を用いて作るというのが基本では無く、むしろ粗末なとでも言うような材を用いて、印象深い存在感をもたらすというのが良いのであり、材に凝るというのは邪道かも知れない。
李朝家具の材を考える
琵琶湖の湖畔に立地する佐川美術館には水辺をデザインした端正な園庭の渡り廊下にいくつものバンダジ(上半開箪笥)が置かれ、とても印象的である。
華美とは対極の、破れたような、寂びた美しさである。
あれは松で作られていたはず。
これらはバンタジという李朝家具の1つの典型としての品質を持つと断言しても間違いではないかもしれない。
しかし一方、両班(一概に言うのは間違うだと思うが、いわゆる貴族階級:ヤンバン)が使う家具はなかなかどうして、とても豪華なものもあったりするので、今回のCLARO李朝棚も日本の数寄者のリビングに置かれるものとしてふさわしい品質として、また喜んでもらえるはず。
お茶道具のキャビネットとなる。
今回は抽手金具の入手が困難だったが、四方八方手を尽くし、何とか所期の目的のものを入手することができ安堵した。
国内ではこうした古美を活かす金具の入手は年々難しくなる。
需要が減れば必然的に産業は衰退していかざるを得ない。
若い木工家もどしどしこうしたものを作り、良い金具を使ってやって欲しい。
下の画像はこれまで制作してきた李朝棚の数々。
acanthogobius
2011-8-10(水) 13:32
完成しましたね。
李朝の家具については詳しくありませんが、黒漆に螺鈿という印象があります。派手だからでしょうか。
このCLAROの杢、何となく天然の螺鈿細工という感じですね。
全体写真を期待しましょう。
artisan
2011-8-10(水) 22:20
>李朝家具 ─ 黒漆に螺鈿
確かにそのようなものもありますね。かなり華美といった風です。
でも一般には、そうした過飾されたものよりも、端正で粗雑なものに人気があり、また独特の風情を持っているので、私もそちらの方が好ましく思いますね。
CRALOの杢の表情ですが、こういうものは画像で評価するのはなかなか難しいですね。
光線の当たり具合で変幻自在に映ります。
いわゆる国産の白木に見られる杢も魅力的ですが、このCLAROの場合は、そうした木理の変化の魅力に加え、色調の変化が実に多様であるところが特徴です。
後日納品後にご覧いただけるようにしたいと思います。
機構的にもユニークな構成ですので。