工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

テーブル製作(その4)吸い付き桟

うちでは吸い付き桟については、「送り寄せ蟻」を基本としている。
いくつかの理由がある。ノックダウンを可能にする、削り加工を含む天板の改修に有利である、といったことになろうか。
今回も1枚板でもあるので、「送り寄せ蟻」で行う。
「送り寄せ蟻」は一般の通し蟻桟と異なり、やや工程数が多くなるものの、さほど難易度が高くなるというほどでもない。
型板作りと、桟の方でのブロック単位での成形にやや煩雑な加工が必要となるぐらいだ。
さて最初から余談で恐縮だが、前回「伏兵が待ちかまえていた…」と終わった件について。
1枚板なので、削りの全ては手加工になる。
ここではそのプロセスの詳細は記さないが、要するに電動ポータブル鉋で、荒削りしつつ、平面を出し、徐々に仕上げ削りに移行していく、という工程だ。
以前伝統工芸の木工家で著名な須田賢司さんの講演で伺ったことなのだが、彼の先代に当たる父親の世代までは、板を木取るには、その大きさを問わずほとんどは手鉋で削りだしていたという。1日に何枚も何枚も削り、4分板などでも大人の背ほどの高さまで積み上げていたという。
木工加工というものは、この手鉋、手鋸による木取り工程が無くては始まらなかったという時代がほんの少し前まで続いていたと言うことなのだ。
だからという訳ではないが、こうした手加工での木取りといい機会を与えてくれる1枚板の木取りには感謝しこそすれ、決して忌むようなものではないだろう。
これを果たすには確かに、体力と、鉋の調整は欠かせない(機械削りでは、最後の仕上げのみに手鉋に頼るが、初めから最後まで手作業となれば、鉋の調整も最低3丁の鉋を適切に調整し、使いこなせる練度が求められる)。
こうした工程も木工業にとってありふれた当たり前のものとして、喜々として行うことの出来る気力と確信がなければ始まらない。


釘1余談の余談になってしまったが、さて、「伏兵」は釘だった。
板面の一部がやや黒ずんでいることには気づいていたのだが、それが釘による材の変色と気づくには至らなかった。
電動ポータブル鉋を掛けて、ガリガリッ、という音で驚かされ気づかされることとなった。
やってしまった。
何と4本もの釘の頭があるではないか。 ??? 1.5寸程が埋め込まれていたから2寸以上のものだったかも知れない。(画像 上から、釘の頭、抜いた釘)

釘2
果たして…、製材の時にはどうだったか?10年も昔に製材したもので確たる記憶がない。(あの時は脚を骨折していて松葉杖での製材立ち会いであったためか、判然としない)
製材後、釘を打った覚えもない。さて?
この4本の釘の正体は何か。
その打ち込まれていた個所(ほぼ年輪の中央部)から判断するに、まさにCLAROのCLAROたる所以であった。
つまり接ぎ木する時に用いたものであることは間違いないだろう。
CLAROという樹種は米国のクルミに欧州などのクルミを接ぎ木したことによる、亜種というか、異種材の接ぎ木による結果、独特の杢が醸されるもののことを指す。
その杢が絡む木目、材色のユニークさ、など一般のウォールナットには見ることの出来ない特有の板面が現れるのだ。
これまで数本のCLAROウォールナットを入手しているが、こうした接ぎ木部分に釘を打ち込まれているのは初めてだ。
実はこうした障害では、ライフルの弾が入っているということがかつて数回経験している。
製材の際、製材機の回転音による騒音の中、製材スタッフが苦虫つぶしたような顔つきで、盛んに自身の歯を指さす。鋸の歯が痛んだ、という符丁なのだ。
ライフルあるいは散弾銃の弾を製材してしまったことによるものだ。
ウサギを追いかけていて当たってしまったのか、射撃の練習でこのウォールナットを的にしていたものなのかは知らないが、こうしたことは決してめずらしいことでは無いようだ。
結局4本のうち抜くことが出来た釘は2本だけ。頭の方が内部にあるようで、いくらペンチ、喰切りなどで掴んでも抜けない。仕方なくそれ以上板面を傷着けるのは得策ではないので、可能な限りにカットして打ち込むことで由とした。
抜いた釘は、このテーブルの顧客に「記念品」として差しあげよう。百数十年前の接ぎ木のストーリーと共にテーブルを愛用して貰うための小道具としては悪くないだろう。
天板吸い付き画像下2枚は「送り寄せ蟻」溝加工、および鉋掛けのショット。
この工程では、またまた釘を引っかけるのではと怖れたが、結果杞憂だった。
損害は電動鉋の替え刃1枚だけで事なきを得た。

CLARO削り
板面に縮み杢が出ていることが分かると思う。CLAROの特質を表して十分な板だ。(手が着色されたように黒ずんでいるのは、CLAROのタンニン成分と、汗、および鉋研ぎでの鉄分の反応によるもの。ボクの手は本当は色白)

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • CLAROというものあるのでしょうが、天然乾燥のウォールナット色目すばらしいですね、(オイルも塗ってないのに)
    私の持っている物は人工乾燥のものなので、くすんだような色です。
    いい材料持っておかないと、、、、
    テーブル製作(その1,木取り)で言っておられましたが、
    桟積みにも何か注意することがあるのでしょうか。
    またお聞かせ下さい。

  • namさん コメントありがとうございます。
    確かにCLAROならではの濃色での発色が見られますね。
    特にこの丸太はすばらしいものでした。
    恐らくnamさんのウォールナットは現地乾燥の製品でしょうから、スチームドのものでしょう。残念ながらこの乾燥材は本来のウォールナット固有の色調を失ってしまっています。
    CLAROでなくとも、一定の樹齢を有するウォールナットでしたら、本来、すばらしい色を見せてくれるはずです。
    桟積みの注意点ですが、実はCLAROに関しては半屋内で桟干ししました。雨と直射日光を避けました。
    通常は屋外で、風が良く通る場所を選び、不均等沈下しない環境を作ることが重要であることはもちろんですが、
    木口が割れないように、前回記述したような樹脂を塗り込め、遮光シート(農業用)などを使い和らげる。
    あるいは木口に近い桟のところまでは、割れが進むと考えるべきで、したがって桟は極力木口に近い位置に置くこと、などでしょうか。
    まぁ、さほど目新しいことではないでしょうけれどね。
    なお、ウォールナット乾燥材の色調に関するお話し(ある種の詐術)は、実はあまり認識されないまま使用している人が多いと聞きます。
    ウォールナット愛好家としてはとても残念なことではありますね。

  • テーブル製作の連載を興味深く拝見しています。
    送り寄せ蟻の加工は桟の方にだけテーパー(締まり勾配)を付けるのですか?
    それとも通し蟻のように桟と溝両方にテーパーを付けるのでしょうか?
    溝の加工にルーターが3台写っていますが、蟻ビットとストレートビットを別のルーターにセットしてルーターを取り換え
    ながら加工するという理解でよろしいでしょうか?

  • 「送り寄せ蟻」ですが、桟をテーパーにすれば、同様に溝の方も同じにすべきでしょうね。
    うちでは画像のように型板から取っています(後日改めて詳説しましょう)。
    ルーターの使い分けですが
    A:30mmストレートビットを付けた大まかな切削
    B:10mmストレートビットを付けたタイトな切削
    C:蟻ビットを付けた切削(up、downさせることが無いので、Plungルーターではなく、コンパクトで操作のしやすいFixed-Baseのルーター[ここではPoterCable])
    A、Bの使い分けはAだけだとRが大きく、その後の角隅のタイトな手加工を容易にするためにRの小さい方も使う、ということです。

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