工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

新工房および住居の造作、設備(その4:洗面コーナー 他)

ずいぶんと間隔が空いてしまいましたが、〈新工房および住居の造作、設備〉を、残り数回にわたって再開します。

洗面コーナー

150302d

今回は〈洗面コーナー〉。
一般の個人住宅ではバスルームに続く脱衣所などに置かれることの多い洗面設備ですが、
うちでは、リビングに繋がる廊下の北側の突き当たりに配されました。
比較的広い空間ですし、窓からの光もあり、明るく開放的なコーナーになりました。

これは設計士、カーポス工作所の森岡さんのプランによるもので、私としても気に入っているレイアウトです。

開放的な洗面コーナー

この南北方向に配された長い廊下ですが、双方の窓を開け放てば、ここを直線的に風が抜け、リビングを換気させる効果を持ちます。

洗面コーナーはその端っこ。トイレの壁面に設備されています。

設備はいたってシンプルな構成。
2mほどのミズメ材のカウンターを壁に取り付け、この中央に1m幅の大きな洗面ボウル、シンクを載せています。
水回りの設備ですので、壁面には磁器質レンガを貼り、そこに収納機能を持たせたミラーを取り付けました。
シンプルで、開放的な空間の構成です。

ミラーですが、これはまだ基本設計の1/3の大きさ。
この倍の広さのミラーを左横に増設し、三面鏡的な機能を持たせる予定ですが、未着手ですわ(画像、手描きグレーの部分)。

したがって、そのミラー上に取り付ける予定の照明器具の取り付けも適わず、天井のダウンライトで間に合わせている状態(老夫婦だけですので、これで十分なのですがね 苦笑)。

ミズメのカウンター

ミズメ材のカウンターですが、1mという大きな洗面ボウルですので重量も40kg近くあり、壁面への取り付けは慎重を要します。

150302g壁に、ボルト径-4分の穴を貫通させ、隣室のトイレに設置した収納家具とともに、壁面を挟み、大きく強固なL字金具を介し、ボルトで固定させることに(画像、カウンター下の黒い金具)。

12mm磁器タイルを壁に貼ってからの施工で、これを開口させるボーリングには大変苦労させられましたが、考えられる中で最も堅牢な手法でしょう。

私のように、松本民藝家具で修行した者にすれば、ミズメの色調は民藝家具、つまり真っ黒なイメージですが、こうしたナチュラルなオイルフィニッシュ仕上げですと、明るくモダンなイメージが醸し出され、住宅設備におけるミズメ効用というものを、再確認させられるものでした。

ミズメ材は今では大変貴重な材となってきているようで、これだけ赤身が張ったものは稀少材といっても良いほどのもののようです。

今回の建築では、このカウンター他、住まい、ショールームの上がり框材として用いたほか、次回取り上げる予定のトイレのカウンターなどにも使っています。

私は個人の家具職人としては比較的豊富に材料を確保していましたが、今回の建築で、このミズメ他、タモ、ミズナラなど、かなりぶち込みました。
この時のためだったのか、と今さらに思うほどですが、しかし、これまでの受注家具に使ってきた材の「残材」であることも確かですので、お客様の方々には迷惑掛けているワケで無いことだけはご理解いただきませんとね。いえ、本当です。

バスルームから愛を

洗面コーナーのある廊下の西側に隣接させ、バスルームームを配置。

バスルームは1間×1間のシステムバス。
「高野槇(コウヤマキ)」「檜(ヒノキ)」「椹(サワラ)」など、国産材を使い、在来の手法で風呂桶を、と考えなかったわけではありませんが、日々のメンテナンスを考えれば、やはりメーカーのシステムバスを選択するのが賢明かなと。(現代文明に侵されている?かな)

大型台風がもたらした豪雨で上流から流されてきた50年以上の樹齢を持つ檜を引っ張り上げ、これで立派な風呂桶を作ったという猛者の家具職人がいましたが、私にはそれほどの甲斐性も無いです。

さて、ここで紹介するのはバスルームに続くランドリー室、兼、脱衣所です。
150302e取り立てて、記すべきことも無いのですが、私が関わったのはシステムラックの選択と、施工くらい(汗;

床はチークのフロア材。幅も狭い普及品ですが、無垢材であることに変わりは無く、何と言ってもランドリー室として求められる耐水性に信頼性の高いチークですので、悪い選択では無いでしょう。

この北側壁面に、右から、洗濯機パン、シンク台、システムラック、と直線的に配置。

システムラック

このシステムラックはIKEAの商品ですが、エレメントが豊富に展開され、また取り付けの経験から評価させてもらえば、そのシステムとしての完成度はかなり高いものがあると言えるでしょう。

肉厚の鉄製ポール。確実、かつ容易に取り付けることのできる堅牢な腕木(およびそのカバー:棚やレールなどを嵌め込んだ個所を被うもの)、棚も鉄板とパンチング板など豊富に、さらには容量も数種展開されているワイヤーメッシュのバスケット、タオル掛け、ハンガーラック、等々、かなり充実した展開です。

IKEAは自社生産も多いと思いますが、これらはドイツ、あるいはオーストリアなどのメーカーに作らせているのでは無いのでしょうか(あるいはこれらの親会社を介した、途上国の工場への生産依頼)。

IKEA商品の品質

ここで、少しIKEA商品について考えてみます。

一般的には、一見、安かろう、悪かろう、といったイメージが流布されているかと思いますが(私も同じでした)、必ずしも、いや、全てとは言わないまでも、決してそのようなものでも無いですね。
特に、このようなシステムラックといった分野のものは秀でていると考えても良いでしょう。

バウハウス以降、ドイツのモダンな収納設備の数々と、そのシステム的発展は、常に世界の先端をいくもので、IKEAもこれらを積極的に導入しているようです。

今回、いくつかのIKEA商品を購入した経験からして、ハードウェアなど、かなり信頼性のあるものが使われていることを教えられました。

ここでは対象にはなりませんが、抽斗レールやヒンジなどは、blumの製品を積極的に使われているようです。
ただOEMということで、blumブランドが表記されるわけでは無いのですが、型番がblumと酷似している事例が確認できていますので、間違いないでしょう(Hafeleの担当者へ訊ねたところ、これを認めていました)。

blumの品質を維持しながらも、世界大的なマーケット展開を背景とした大きなボリュームでのLOT生産、徹底したコストカットでのリデザイン等々、両社のウィンウィン関係が偲ばれるものです。

ただ、木部周辺の品質は、私たちのような専門的な立場の者からすれば、当然ながらも、かなり品質は落ちます。
MDFが主体ですし、無垢材も、狭い部材の集成材が基本。当たり前ですがね。

でも、日本国内では好感度、品質共に人気のブランド、〈無印良品〉の家具などと較べても、より洗練されていると言って良いです。
その素材の品質、ジョイント金具などのハードウェアの品質、ジョイントシステムの完成度等々、明らかに一日の長、というか、数千日の長という違いがありますね。

日本メーカーのこの分野の商品開発は、IKEAなど欧州製造メーカーのコピーであるとも言えるわけですので、こうした品質の差異は当然ではあるのでしょう。

さて、次回はトイレへのご案内です。ではまた〜。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 水周りに無垢材は中々難しいですよね。
    職業柄、木を使いたいという感覚は理解できますが
    フリーエッジの材の上に真っ白な大理石調の洗面ボールは
    個人的にはちょっと違和感です。
    貴重なミズメ材、洗面ボールの部分はくり抜いてしまった
    のでしょうか?
    ところで、IKEAの椅子が壊れて、手が使えなくなったと
    IKEAを訴えていた人がいるらしいですが、その後は
    どうなったでしょう?
    Windowsよりコメント

    • いろいろとご心配頂いているようで恐縮です。

      ミズメのカウンター、“もったいない”刳り抜き、というご懸念ですが、必要とあらば、それもいたします。
      しかし、今回は“もったいない”が勝ち、実際は切断し、手前だけ別のミズメを持って来て、いかにも、連続しているように見せている、というわけです。

      というより、そもそもカウンターの幅に近いシンクのサイズですので、残す部分、わずかに50mmほどであれば、構造的強度から持つはずも無く、連続しているように見えたとすれば、設計上、制作上の勝利、と言えるかも知れませんね。

      1m幅もありますと、通常の洗面などでは、水の飛沫がシンク幅外へと飛散することはほとんど無いですね。そうした懸念も考え、あえて大きなサイズを選び、また壁面には磁器質タイルを張ったわけですね。

      また、例え飛沫が飛んだとしても、オイルフィニッシュしていますので、すぐに拭き取れば、全く問題ありませんよ。
      事実、一年の余、朝晩使い続けていますが、テクチャーの劣化は全く視られません。

      デザインの「違和感」ですが、好みであったり、美意識の領域の問題でしょうから、あえて反論などいたしません(苦笑)。

      IKEAの椅子の件は良く分かりませんが、どんな椅子でも使用条件等によっては破損することもあるでしょうし、椅子に限らず、不良なものも出回ることもあるでしょうね。
      問題はその後の企業対応の問題ということになりますでしょうか。

      私はIKEA商品を全面的にべた褒めしているわけではないことは、本文からもご理解頂けるはず。
      安かろう、悪かろう、という商品は市場にあふれているわけですが、虚心坦懐に、その実態を精査することで、巷の噂などに振り回されること無く、賢い選択に繋がることは少なく無く、IKEAもそうした商品群があることを知ったことは今回の収穫でした。

      今回の記述は、設備商品の選択と、施工、およびユーザーとして使い続けた結果、家具金物などを良く知る専門的立場に踏まえ、その客観的評価を述べたところです。

      それは本文をお読み頂ければご理解頂ける範囲のものと思いますし、また実際にIKEAのこうしたシステム家具をはじめとする設備、周辺資材などを導入されている個人、および内装業者、リフォーム業者が多いことは、インターネット上からも推し量れることです。

      あるいは室内インテリアの歴史のある欧米を中心とし、ユーザーに広く受け入れられ、世界的企業としてのブランドを確立していることの背景を考えても、単なる廉価販売だけをウリにしている企業というイメージだけでは無い、何某かの品質への評価もあるだろうことは想像に難くない事柄でしょうね。

      事実、うちに出入りしていた施工業者も、その品質へは高い関心をもって接していたようで、認識を改めているようでした。

      〈IKEA商品の組み立てについて〉

      なお、序でですので、ここで書き記しておきますが、IKEAのこうしたシステム家具の購入ですが、設置に関しては、十分な道具が揃わない一般の方々には、少し難易度が高いものもあると考えた方が良いと思います。

      必要最低限の工具(スパナ、六角スパナなど)は同梱され、また実に良く考えられた、システマチックな機構として完成度の高いものがありますが、やはり家具構造への知識、あるいは組み立ての経験が無いと難しい部分もあります。

      また、IKEAでは専門のスタッフによる取り付けのサービスも提供しているようですので、そうしたサービスを利用する方法の選択もあります。

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