工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

バンドソーなどでの曲線加工は?(ドイツのテキストから)

バンドソーでの曲線切削

いきなりで恐縮ですが、バンドソー(帯ノコ)での曲線切削は皆さん、どうされているのでしょう。
うちの椅子の定番に《座布団チェア》というのがあり、これには1,200rのラダー(背の部分の格子状のパーツ)が12本もあり、作るのはなかなか面倒な工程になります。

【BGHM】 Berufsgenossenschaft Holz und Metall決まっているわけではありませんが、一度のLot数は10脚以上です。
1脚ごとに作っていたのでは埒があきません(≒生産性が上がりません)。
10脚とし、このラダーは120本。半端な数ではありませんね。

私はこれを設計した際、いかに効率的、高精度にラダーを作るかを考え、1つのジグを作ったのですが、それを未だに使用しています。

また、この120rだけではなく、正Rの曲線切削、加工でも、同様のジグを作っているのは当然です。

なお、バンドソーでの加工と同じように、その次の工程である仕上げ切削を行う、ピンルーター(ルーターマシン)でも兼用できるものとして活用しています。

本テーマでは余談になりますが、次の工程になるホゾ付けは、ホゾ取盤で行うことになります。
既に曲線加工を済ませている部材へのホゾ加工は至難です。
その難易度を解決してくれるのが〈ホゾ取り盤〉というわけですね。

5〜6本のラダー部材を一気に①総丈を決め、②胴付きを付け、③ホゾをカットしてしまいます。
正確無比に、ホゾが付いた部材が産み出されます。

さて、ところで、うちに訪ねてくる若い木工職人に、こうした正R切削工程の方法につき「あなたならどういう方法で作るか」と訊ねると、多くの場合「墨付けし、バンドソー、あるいはジグソーで挽くんじゃないですか。その後ルーターで仕上げるのであれば、型板を作り倣い加工になるのでは?」と答えます。

なぜこんなテーマを持ち出したかと言えば、前回挙げた面取盤の安全フェンスに関わり、Blog記述の末尾に上げた、ドイツでの【木工作業安全マニュアル】(教科書のような構成ですね)に、私が作ったジグととても似たものが使われていたからです。

ドイツのテキストから

あらためてその電子書籍(「BGHM Berufsgenossenschaft Holz und Metall」:PDF:9.7MB)をご案内しましょう。

この書籍を編んだのはドイツBGHMという傷害保険組合の機関のようで、日本の類書には見られないほどに、分かりやすく、かつ専門的な事例が多岐にわたり詳述されています。

対象頁はこのP44〜45あたりです。
ここでは600rほどと思われる曲線切削作業を行っています。

bandsaw.roundcutご覧のように、墨付けし、これを目印に挽いているわけではないですね。

バンドソーに固定したRのセンターを中心とし、被切削材を手動で回転させれば、比類無き曲線が産み出されるというわけです。
簡単な話ですね。

柔らかな頭脳があれば、解は簡単に導き出される、初歩的な幾何学の原理というわけです。

実は、この図柄と同じものを観たことがあります。
自身のジグを開発した数年後のことでしたが、木工機械展で協和機工のブースを見学した際、この図柄のものをカタログで発見。
その場でスタッフと言葉を交わしたのでしたが、後日、この会社から連絡があり、ぜひ工房を訪問させてもらい、ジグの実演をさせて欲しい、とのこと。

当方は買い求める積もりなど、端から無いので断ったのですが、どうしてもとの強い要望もあり、数日後、来訪していただいての実演となった次第。

確かにドイツの機械メーカーのものだけあり、しっかりとしたものではあったものの、被加工材をピンで突き刺し固定するという方式は、自ら開発したものと較べ、明らかに危ういものであり、また他の理由も含め、私の手作りのジグの方が汎用性が高く、使い勝手が良いので、そうしたことを理解していただき、退散していただくことに。
(このジグ、旧工房に置いたままで画像もありませんが、訪ねていただければご覧いただくこともできます)

メーカーが製作提供しているものを参照しつつも、より使い勝手の良いジグを開発するのが、優れた職人の条件でもあるわけですが、一人親方の工房では、なかなか横の繋がりも薄く、こうして機械展でのメーカー展開を見学したり、インターネット情報を的確に取得し学ぶことで、足らざる隙間を埋めるのの重要というわけです。

ヘッド昇降のルーターマシン

ルーターマシンでの曲線の切削作業について、1つ重要なポイントを上げておきます。
被加工材をジグに取り付け、その後曲線切削加工を実施し、ジグから外し、次の加工材を取り付ける、こうした一連の作業を行うためには、センターポイントのレベル(床からの高さ)と、ルーターマシン定盤のレベルは同一でなければなりません。

多くのルーターマシンの場合、ヘッダーに取り付けた刃物を加工材に当てる、放す、の工程は、足踏みペダルでの定盤の昇降により行っています。
したがって、このジグの方式は使えません。

あくまでも定盤は固定であることが前提となります。

しかし、この隘路を解決する方法はあります。
市場には少ないようで、見知らぬ人もいるかも知れませんが、定盤はあくまでも固定で、ヘッドを昇降させるというタイプのピンルーターもあるのです。

このタイプのものが、何かと汎用性が高いと考えて良いでしょう。
例えば、刃物を降ろしたゼロ位置(刃物を所定の位置にまで接触させる、そのポイントのこと)が、テーブル昇降の機械的特性から、わずかに刃物のマークが残ってしまうことに対し、ヘッド昇降はそのデメリットから自由です。全く残りません。

当然にも、定盤が固定されていることでの加工性の安定度は高く、安全作業にも繋がることは言うまでも無いでしょう。

国内外のテキストを参照し、より高度で楽しい木工を

さて、この独のテキストは曲線加工以外にも、いくつかの示唆を与えてくれるシーンがありますね。
無論、安全対策を解くためのテキストで、それ自体大いに参考になりますが、様々な加工工程でのジグの紹介もありますので、安全対策以前の彼の国での木工現場のアイディアがほの見え、大いに参考になります。

私は訓練校を出て以来、教科書的なテキストを見ることも無く、このテキストのような国内版があるのかは寡聞にして知りません。

最近はあまり書店にも足を運びませんので分かりませんが、一時木工関連の雑誌も数種あり、そこで紹介される技法には、首を傾げる内容のものも少なく無く、ぜひとも、それらに代わる、本格的でオーソドクシカルな技術書、安全対策を解いた公刊物が必要だよねぇ、などと、こうして彼の国の関連書を見る度に感嘆を漏らしてしまう今日この頃です。

いわゆる産業としての木材加工、家具製作が衰退の一途を辿っているかのような現状を顧みれば、こうした刊行物への期待は、いよいよ夢物語の類の話しで、一笑に付されるだけかもしれませんね。

余談になりますが、このテキストにも高速縦軸面取盤がでてきますが、フェンスはやはりAIGNER社のものです。
欧州の業界ではデファクトスタンダードな安全フェンスとして、圧倒的なシェアを誇っているのでしょう。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 貴殿以上に執筆に適した人物は居ないのではないでしょうか!?
    皆そう思っているはずです!

    • ははは、ご冗談でしょう。

      まずは素直に、その過分な評価?には感謝いたしますが、
      その任に値するほどの人物じゃこざいません。(苦笑)

      木工に関してはキャリアに相応する程度に、いささかの自負もありましょうが、
      テキスト執筆となると、全く異なる才覚が求められるだろうこと位は理解している積もりです。

      ただ、もしそうした企画があり、助力を求められるのであれば(まぁ、無いでしょうけれどね)、
      進んでお手伝いする意欲と、責任は持たねばならないでしょうね。

      ところで、midoriさん、存じ上げない方のようですが、
      さしつかえなければ、今後もこうして遠慮無くコメント付けていただければ嬉しいですね。
      この度のドッキリこめんと、ありがとうございました。

  • はじめまして。埼玉で家具職人をしている藤沢と申します。

    いつもブログを拝見させていただいております。
    勉強になりとても参考にさせてもらってます。

    ひとつ質問させていただきたいのですが、今回のドイツの教科書はどのように検索したらでてきますか?何度も色々調べてるのですが、出てきません。

    お忙しいとは思いますがよろしくお願いいたします。

    • 藤沢さん、コメントが反映されなく、戸惑ったかも知れませんね。
      初コメントの場合、シシテム上管理者の承認が必要となり、タイムラグが出ちゃいました。
      今後は即反映しますので、これからもヨロシクお願いします。

      では では、・・・
      というわけにはいかない(笑)

      実は記事を上げるにあたり、書籍へのLinkを貼ろうと思ったのですが、
      引越の混乱の中で、見失ってしまい、案内できまでんでした。

      あらためて調べたところ、以下のようです。
      Holztechnik Fachkunde. Mit CD

      国内では取り扱いが無いかも知れませんので、米国amazon、独amazon などからの取り寄せになりますね。
      しかし、そうした苦労を慰労して余りある充実のテキストです。

      なお、これも70年代頃の有名なテキストですが、良書です。
      Der Möbelbau: Ein Fachbuch für Tischler, Architekten und Lehrer

      木工全般にわたるものですが、特徴的なのは図版(三面図など)が豊富で、とても参考になります。
      多くの場合、日本の木工の仕口と共通する部分も多く、
      技術における東西の交流、独自の発展形態などが偲ばれるものですね。

  • お忙しいなかお手数おかけして申し訳ありません。

    反映されず二度も投稿してしまいすいません笑

    リンクありがとうございます。
    早速調べてみます。

    下の方の本はこちらのブログで以前紹介されていたのを拝見して、速攻で手に入れました笑

    しかし、日本は今の技術に満足しているのか、進歩が無いように感じます。特に木工では。

    機械加工や精密機械は日本はトップクラスなのに、洋書の木工の本や雑誌を見る限り木工では、欧米に30年は先に行かれてしまっている気がします。

    それに追い付くためにも、海外からの情報収集は欠かせませんね。

    長々とグチを失礼いたしました。

    リンクの件ありがとうございました。

    • 日本の木工、木工芸は世界に冠たる伝統を有し、今に伝えられているわけで、さしでがましい言い方が許されるなら、私たちはその末裔として日々勤しみ、体現しているわけですよね。

      この記事で語った事は、欧米と我が国における技術、技能の体系的で集約的な編纂、テキスト化の問題です。

      日本ではこうした分野の伝承は、一子相伝というものに象徴されるように、極めて私的なものとして伝えられてきているわけです。これは民俗学的な捉え方ではアジア的特殊性という概念になるのかもしれません。

      他方、欧州(米国は、また特殊ですが)においては、近代化が早かったという理由もありますが、技術、技能というものが、社会的なコモン(共有)と位置づけられ、テキストとして集約、体系化され、編纂されていくという歴史があります(かなり大ざっぱで雑な整理でしかありませんが)
      同時にまた、近代社会にあっても技能者というものが社会的に有為な構成員として包摂され、マイスターという制度ににも見られるようなある種の高い社会性を獲得していくという歴史があります。

      いわば近代社会における合理主義としてのテキスト化であり、さらには木工を高いレベルの技能として、あるいは芸術的な営為として自負するからこそ、立派なものを遺そうと努力してきたのでしょう。

      もちろん日本も近代化150年を数えるわけで、そうした西洋的な制度を取り入れ、今日に至るわけですが、技術、技能の伝承は、一子相伝といったスタイルは崩れつつある一方、コモンの分野では、それに代わる、西洋に見られるような確固とした編纂、テキスト化は決して十分なものにはなり得ていない、というのが私の問題意識です。

      これは、ある種日本固有の問題があるのかも知れません。
      関係する諸機関、あるいは私たち自身の怠慢も含め、十分には為し得てこれなかったということもあるでしょう。
      (現在公刊されてはいないものですが、明治以降、木工関連の技法について書かれた文献は数種あるようです。今とは違い、当時、木工はある種の花形産業であったでしょうから、いくつもの文献が編まれてきているはずです。国会図書館などに行けば探せます)

      ただ、技術、技能というものは、必ずしも体系化し、編纂された文献の中に封じ込められるものだけではない要素があるわけで、そうしたものはやはり人から人へ、親方から弟子へ、という伝承のスタイルが欠かせないものが残るわけですね。

      どちらのスタイルが良いのか、という選択の問題ではなく、それぞれ異なる伝承法と言った方が正しいでしょう。

      時代的には、木工は産業として見れば明らかに斜陽ですので、親方筋から伝えられるというスタイルを踏襲しようにも、対象がいない、というのがますます顕著になってきているでしょう。
      残念ながらそれが実態。
      したがって、それを補完する意味でのテキストは重要なものになってきていることは確かです。

      若い方々が、こうした状況にどう向き合っていくかが課題になるわけですが、
      良いテキストに出逢い、学びつつも、
      良い講師のいる訓練校を探すとか、良い技能を有するキャリアの職人を訪ね、教えを請う、弟子入りする、と言った積極的なアプローチが必要なのかも知れません。
      (アマチュア向けのつまらない雑誌などで技能を修得できるほど、この世界は甘くは無いというのは言うまでもありませんが)

      良い回答にはなっていませんが、またコメント頂ければ嬉しいかな。(初稿:2014.12.07 01:04、改稿:2014.12.07 8:30)

  • お手数ですが、gmailを頂けますでしょうか?

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