工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

新工房および住居の造作、設備(その3)

和室

昨今、住宅の間取りにおける和室の比重はずいぶんと蔑まれていると言うのは、やや大げさかも知れませんが、それほどに顧みられなくなっていることも確かなようです。

あったとしても、広く取ったリビングの間取りの一角に、床を1段高くし、全体の居住空間のアクセント的な位置づけであるかのような佇まいであったりというのが住宅デザインの流行のようです。

確かに核家族化し、畳の間が恋しい高齢者もいなければ、子どもを正座させ、説教垂れる親は嫌われるタイプの筆頭であるかのよう。

先に多くの家具を納入させていただいた個人宅には、由緒正しき和室があり、漆の座卓を置かせていただいたわけですが、その八畳間には炉が切られ、ご婦人とともに茶の湯を嗜まれるという人でして、そうした限られた人々に受け継がれて行かざるを得ない宿命の住空間なのかもしれません。


そんな絶滅稀少的な和室ですが、由緒正しきとまではいきませんが、1部屋和室を設けました。
私は思考スタイルとともに、生活スタイルはモダンであろうと努めている者の部類ですが、制作する家具の中には、私自身は決して意識的では無いのですが、いわゆる和のデザインとしてカテゴライズされるものも少なく無く、そうしたものを展示するスペースとして必要でもあったわけです。

もちろん、たまにはゲストルームとしても活用する積もりではありますが。

和室・床の間

和室・床の間


部屋の設計、デザインは設計士との相談で決め、細部は棟梁が現場対応でやってくれました。
70歳を超えるキャリアの棟梁ですが、老いを全くと言って感じさせない腕利きの大工で、与えられた条件の下、最良の仕事をしてくれるのです。

構成

この部屋は実質的に8畳ほどの空間ですが、あえて畳は六畳とし、L字型にフローリングを張っています。これも設計士の考えですが、気に入っていますね。

ただ南北14m、東西18mという建物の全体の駆体は切妻ということで、南端に位置する和室の天井が半分ほど傾斜している変形になってしまっています。
茶室などは、むしろあえて天井を低くしたりすることも多く、その例に倣ったと言えば、もっともらしいウソになりますが、客人には我慢していただきましょう。笑

和室

和室


炉こそ切っていませんが、茶の湯でも楽しみたい空間に仕上がりました。

なお、この和室の間仕切りの柱、鴨居、敷居は、実はアメリカンチェリーです。
私の手持ちのフリッチ材から穫ったもの。

ブラックチェリーとは違い、おとなしい木理と色調で、壁のルナファーザの色調とともに、しっくりと溶け込み、良い感じです。
あえてヒノキにはしませんでしたが、広葉樹ではあるものの、このチェリーによって高品位に仕上がっています。

いつ使うとも知れずに、安曇野の友人木工家とともに買い上げたチェリーのバンドルでしたが、やっと陽の目を見た感じで、材木も喜んでいることでしょう。

建具(襖)の框はヒノキです。
襖紙も、壁面のルナファーザと相似の色調に、わずかに柄が入る程度の自己主張しないものを選択。

吊した、イサム・ノグチ風の和紙のペンダント照明は、どこの居酒屋でも見掛ける、あまりにありふれたものですが、数百円の単価に惹き寄せられ買っちゃった。苦笑

床の間

床柱は鉄刀木(タガヤサン)、落とし掛けはイチイ(一位)、床板は2.5寸板のケヤキ。

床板の入手は少し苦労しました。
実は私も2枚ほど3尺幅の栃の板を持っていたのですが、棟梁との行き違いがあり、手持ちの材料より間口が広くなってしまい、使えなくなってしまった。

慌てて新たに探し始めたわけですが、3尺幅、1間近い間口の材はあったとしても、張り物ばかり。無垢板なんて普通の建材屋にはありません。
銘木屋をあたっても、帯に短したすきに長しで、上手くない。

そんなこんなで苦労しましたが、名古屋、松井さんに頼み、在庫のものを譲っていただくことに。
一般に床板は、3寸角ほどの床框に、1寸弱ほどの厚みの1枚板に吸い付き桟を施し、これを落とし込むという手法が多いようです。

現在はほとんどが張り物ですが、工房 悠が張り物というわけにもいかず、いかに身の丈知らずの高価なものであっても、無垢板を条件にしたわけですが、それ用のものは入手が適わず、2.5寸厚みのもので、框無しでそのまま嵌め込んでしまいました。

したがって見付けに白太がきてしまったわけですが、ご愛敬というところでしょう。
まだ周囲に雑巾摺も無ければ、掛け軸の釘も打たねばなりませんね。

厚板とは言え、もちろん吸い付き桟はガッチリと通しています。

まだ無塗装ですが、暇を見付けては拭漆をしたいと考えています。
雑巾摺などはその後ですね。

(上の画像、右上に妙なものがありますが、カメラのストロボですので気になさらないでください 汗;)

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