工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

LEDは未来を拓く(続)[追記があります]

LEDの現状

LEDがノーベル物理学賞の受賞対象となったことで、製造メーカー関連株が急伸といったニュースが流れましたが、この受賞のインパクトは大きく、一段とLEDの普及は進むと思われます。

今回の受賞を機に、一般家庭や、公的施設への照明設備としてさらに普及していくことは製造現場としても大きな期待を寄せていることでしょう。

LED需要は前回お話ししたように照明の分野での省電力効果からの普及とともに、ここ5-6年は液晶ディスプレーのバックライトとしての伸びが著しかったことは、あまり一般には知られていない事かも知れません。
ただ、これらの需要が一巡した今、スマホのディスプレー用として製造システムがシフトしているようです。

ところで、ご存じかも知れませんが、国内製造のトップはこの度のノーベル物理学賞受賞者の中村修二氏が在籍し、研究していた日亜化学です。いや、国内Topであるとともに世界Topのはず。
特許権を巡る司法の場での争いをよそに、その研究結果がもたらす圧倒的な稼ぎを見れば、いかにすごい研究成果だったかが分かります。
今回の受賞にあたり、同社からのコメントは素っ気ないものでしたが、これを機に需要拡大を見込み、恐らくは巨大な設備投資に着手していくことになるでしょう。[1]

LED

ただ、この照明器具の革命児、安穏としているわけにはいかないだろうなという問題もあるわけです。
有機ELの普及ですね。

既に一部のスマホ(SAMSONG)にも搭載されつつあるようですが、製造コストの問題も徐々に克服されていくでしょうから、LEDの普及分野へと切り込んでいくことも、そう遠くないのではと感じられます。

私も汐留のパナソニック電工ビルにある汐留ミュージアムで何度か、この有機ELのパネルで照射されるアート作品を観ましたが、LEDが点発光なのに較べ有機ELは面発光であり、パネル全体を均質に光らせることが可能で、とても自然な光線が得られることにとても興味深く魅入られました[2]

今や、こうしたIT素材の製造分野は、その需要は世界規模でのことになりますので、まさに国際的な経営戦略でしか業界の雄にはなれないもののようです。

国内でも、決して相まみえることは無かったパナソニックとSONYですが、有機EL開発研究に関しては、共闘して挑む姿に新時代を感じさせるものがありますし、このLED、有機ELをめぐる開発競争は巨大な市場をめぐる激烈な争闘の場になっていることを示す好例です[3]

多面的な活用に見るLED照明の未来

LED野菜工場

野菜などの植物は、栄養素の摂取とともに成長には太陽光が欠かせません。光合成が必須の条件だからですね。
この太陽光をLEDでの照射に切り替え、工場内での液肥供給のコンピューター制御とともに、効率的に育成させようという試みが、既に実験段階を超え、実用段階へと入ってきています。

LED野菜工場

LED野菜工場

LEDは赤、黄、青の3原色を制御することで、任意の波長の色を出すことが可能です。
この特徴を活かし、例えば赤色の波長が植物の光合成を促進させることが解明されていますので、ここにLEDの光源を活用し、より効果的に野菜栽培の管理をすることが可能になるということです。

また紫色の波長は殺菌作用があることが分かっていますので、こうした分野にもLEDの特性を活かすことが可能になっているようです。

3.11東北大震災により、大打撃を受けた東北沿岸部の農業者らが、これに着目し、本格的大規模なLED野菜生産工場を設立したことは、多くのメディアが取り上げているところです。[4]

LED

私などは、有機栽培の美味しい野菜を摂取したいと願う旧時代の人間ですが、こうした野菜工場は、そうした旧い人間の願いや懸念を吹き飛ばしつつ、安全で、安心な野菜を、安定的に供給できるシステムとして、大きな将来性があることは間違いないでしょう[5]

無論、まだ始まったばかりで、今後予期しない問題が出るかも知れませんが、ぜひ克服し、成功させて欲しいものです。

美術品の照明

LEDは発熱が無く(ソケット部は別ですが)、赤外線も発生しないため、熱劣化にシビヤな対象への照明に適性があり、また様々な色調で制御できるという演色性も高く、美術品などへの照明には向いており、積極的に導入されているようです。

ノーベル物理学賞受賞のニュースでは、駅のプラットフォームでの青色LEDの照明が、自殺を思いとどまらせる効果があることが報じられていましたが、人への様々なホルモンの分泌に、特定の色が働くという研究結果もあるようで、今後はこうした分野への導入も進んでいくようです。

木工家具の分野ではどうなのでしょう

家具にも、カップボード、キッチンキャビネット、書棚など、様々なものに照明器具の付設を求められることがありますが、これまでは蛍光灯やハロゲンランプなどが多く使われてきていました。
現在では、大手家具金物製造メーカーを中心にLEDの照明器具を積極的に開発、市場投入しています。

私も仏壇での小さな照明(扉を開けると自動的にスイッチが入る仕掛けなど)、カップボードなどにも使ってきましたが、この分野は日々新たなものがリリースされていますので、取り入れる際は、新たな情報収集が必要です。

決して多くは無い経験からですが、選択におけるポイントの1つとして、トランスの有無があります。
商用100vをそのまま繋ぐタイプと、外付けトランスを介するものとありますので、注意したいものです(小型でスリムなタイプのものでもトランスレスのものもあります)。

また、家庭用の照明と同様、LEDは電子機器ですので、センサースイッチを付属させるのは得意なはずですので、そうしたものも開発されていくでしょう。
なお、センサースイッチのメリットですが、何よりも消し忘れでの電力消費が抑えられる、スイッチの取り付けが不要といったことが挙げられます。

家具制作に必須の充電電動工具への搭載

14.4v充電ドライバーなど

14.4v充電ドライバーなど

5〜6年ほど前から(もっと遡るのかな)、充電式電動工具に、このLED搭載は必須の仕様になってきていますね。


10.8v 小型インパクトドライバー

10.8v 小型インパクトドライバー

インパクトドライバーなど、暗くなりがちなビット先を照らし出してくれるスポット照明は、今や欠かせなくなってきました。


Dewalt コンパクトルーター

Dewalt コンパクトルーター

このBlogでもお奨めしているDewaltのコンパクトルーターにも搭載されていますが、透明樹脂のベースを通し、ビットの運行が視認できるのは、作業精度、安全性において、大いに貢献してくれるものです。

今後市場投入される、こうした分野の電動工具では、LED搭載は必須の条件になってくるものと思います。


また、この充電電動工具の互換バッテリー活用の1つとしても有用な、携帯型の照明器具が各社から出されています。

LED 作業用照明器具

LED 作業用照明器具

私も、それ以前の蛍光灯タイプのものから導入していましたが、LED対応のものに切り替えてびっくりです。
その明るさもさることながら、圧倒的なバッテリーの持ちに感服しちゃいました(14.4v、および7.2v)


最後に、この作業現場へのLED照明器具の導入について1点、注意したいことを記します。
ホームセンターなどでは、小型の懐中電灯タイプのもので、廉価なものが出回っています。

具体的にどれがどうとは言いませんが、LEDの明度や、価格だけで選択するのはリスクが高いのもLEDの特徴です。

LEDは寿命が長いとされています※が、メーカーによっては明度を過度に上げるため、電力供給における電子制御部分をいい加減なもので済ませるケースも多く、また耐熱構造、冷却システムの杜撰な設計のものもあり、そうしたことでLED素子の劣化、短寿命で終わらせてしまう、ということもあるようです[6]

LED

なお、これは小さな懐中電灯タイプでの個人的な取捨選択の基準の話しですが、乾電池、ボタン電池の仕様において、複数の本数を使うものも多いようですが、私は単三、1本の仕様のもので市場での評価の高いものを選択しています。
単三 1本で駆動のミニライト

単三 1本で駆動のミニライト

市場では単三や単四を3本使う、あるいはボタン電池を数個使う、というものも多いようですが、使い勝手から行けば、これは単三1本のものがはるかに管理しやすいと言えるでしょう。

単三1本では電圧からして、あまり明度が出せないのでは、との懸念もあるでしょうが、現在のLEDは高効率で、高輝度のものが多く出回っていますので、実用範囲での活用であれば、何ら問題無いようです。

ネット上にはこうした情報は溢れかえっていますので、詳細についてはそちらにお任せしましょう。

こうして、LEDは長足の進歩を遂げ、今や私たちの暮らしに欠かせないものとなってきていますので、ぜひご自身で良い選択をされ、ノーベル物理学賞受賞の恩恵を、省電力への貢献とともに、明るく快適な生活のため、受けていきたいものです。


追記(2014.10.16)

朝日新聞(2014.10.16)に〈未来照らす「光」に脚光 ノーベル賞、自然科学2分野〉という記事がきていました。
興味深い内容ですので、一部引用させていただきます。(朝日新聞 2014.10.1[科学]面)

■照明以外への活用も

LEDの研究者や技術者が目指しているのは、さらに発光効率を高めて省エネを図ることや、青色LED開発で培った半導体技術の、照明以外への応用だ。

最新のLEDは、同じ程度の明るさを得るために必要とする電力が、白熱電球の約8分の1、蛍光灯の半分強で済むとされる。

秩父重英・東北大教授(半導体電子工学)は「結晶の品質をより高め、光にならずに熱になる成分を減らすことで、電気から光への変換効率をさらに高めることができる」と話す。

結晶の欠陥を少なくしたり、「p型」にあるプラスの穴の密度を高くしたりすることで効率は高まる。物質・材料研究機構の小出康夫・中核機能部門長(半導体工学)は「サファイアではなく窒化ガリウムそのものを基板とすれば結晶の欠陥はさらに減る」という。ただ、窒化ガリウムの基板は高価で、コスト面で課題が残っている。

青色以外の研究も進む。小出さんは「発光効率が低い緑色や、青色よりもエネルギーが高い紫外線を出すLEDについて、今後さらに研究開発が進むのではないか」とみる。特に紫外線は食品や水などの殺菌に使える。だが、長時間の使用に耐えうるLEDの素材が必要になるという。

天野さんらは、LEDの開発で培った技術を照明以外に応用し、窒化ガリウムで、電力損失の少ないエネルギー変換ができる部品の開発を目指している。

現在、直流を交流に変えたり、電圧や周波数を変えたりする装置の半導体には主にシリコンが使われている。窒化ガリウムを使うと、電力の損失が減り、装置も小型化できる。

例えば、周波数の違う東日本と西日本で電力を融通しあったり、高圧送電の電圧を家庭用に下げたりするときには約1割の電力が失われている。これらを減らせば、電力の節約に貢献できると期待されている。

 (小池竜太、鍛治信太郎)

結晶の高品質化でさらなる高効率化の可能性、殺菌効果の高い紫外線発光への展望、さらには電送分野への貢献など、夢は広がるようですね。

《関連すると思われる記事》


❖ 脚注
  1. 日亜化学工業のコメント「大変喜ばしいことです。とりわけ受賞理由が中村氏を含む多くの日亜化学社員と企業努力によって実現した青色LEDであることは、日亜化学にとっても誇らしいことです」(朝日新聞2014.10.08 ) []
  2. Panasonic 有機EL []
  3. ソニーとパナソニック、JDIが有機EL新会社 JOLEDを設立。産業革新機構が75%出資  http://japanese.engadget.com/2014/07/31/joled/ []
  4. 東北で誕生した先端農業を世界へ-レタスが見る未来 []
  5. 参照(LED光を”エネルギー源”として活用する野菜の未来型生産システム「LED植物工場」/玉川大学) []
  6. 白熱灯が1,000時間の耐久に較べ、LEDは40,000時間とされたりしていますが、実際には誰もまだそんなには使った経験など無い、理論値ですし、LED素子そのものの耐久性もさることながら、電子回路の耐熱、耐過電流といった周辺環境の状態で大きく左右すると考えた方が良いでしょう []
                   
    
  • 紫外線では、8,9年前 高知のメーカー(日亜)では、ありませんが、使わせて頂きました、360、370、390とか素晴らしいものがありました。偽札判断とか機械の点検に使えます。・・・・近いうち新工房お伺いしたいと思います。

    • Tsutsuiさん、Blog Renewalしてからはお初のコメントですね。
      ありがとうございます。

      書かれている数値は波長でしょうか。
      いわゆるブラックライトと言われる光源にも、この紫外線LEDも用いられているようですね。

      >偽札判断とか機械の点検に
      今後、さらに未知の分野にも使われていきそうな勢いです。

      また,LEDの新情報、ご教示ください。
      工房来訪、Welcom です。

  • やっとお座り。見るからに仕事を沢山しないといけない飛行機ぐらいつくるハイパワーマシンですね。新工房にふさわしく、遊ばせないでがんがんやる気配を感じさせる頼もしい装置です。

    • Abeさん、このコメント、Twitterに上げたドリルプレスの組み立てへのものですね。

      確かに、設置してみて、飛行機は無理でも、類種の中でも最高の部類に入るマシンではないかと確信しました。

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