工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

新工房 建具について(3)

建具、その3:展示室玄関のドア

前々回に上げた工房2階の居住スペース玄関と、同じ空間に展示室の入り口があります(画像 左手に見えるのが居住空間への玄関です)。
本来、それぞれ別のアプローチが良いわけですが、建物の構造上、やむを得ない選択でした。

ドアの構成と仕口

ここも親子での構成です。

展示室の玄関

建築内部のドアですし、展示室へのアプローチと言うことで開放的なデザインにすべく、框の外枠のみで構成し、大開口部には10tのポリカ(ポリカーボネート板)を嵌めています。

これも框材はタモです。
ただ縦框は他と同様、極東ロシア材(柾目とり)ですが、実は横框は国産のタモ材。
私自身が10年以上昔に競り落とし、製材管理してきた木材です。

別途紹介する機会もあるかもしれませんが、階段の踏み板として、かなりの量のタモ材を用いました。
この踏み板、設計見積の段階では、ゴムの木という仕様で、しかも集成材という内容だったのですが、木の仕事をしていて、それは無いだろうと言うことで、在庫していた国産のタモ材を供出したというわけです。

その階段材に用いた材木から、良質な部位(たまたま縮み杢も入っていたわけですが)を抜き取り、横框としました。

ご覧のように、辺材の自然なラインを残したままでの木取りとしたところがユニークと言えばユニーク。
ジョージ・ナカシマ風に言えばナチュラルエッジ、日本の職人符牒で言えば耳付き、ですか。

展示室の玄関(内部より)

私はドア職人ではありませんので、こうしたところは遊んでみるわけですね。
仕口の加工は少し面倒ではあるのですが、仕上がりの効果を考えれば、そうした標準外での仕様、難易度のいささかの高まりは、むしろ喜んで受容すべきであるというわけです。

仕口は蛇口(馬乗り)で、ナチュラルエッジも含め、ぐるりと角面を回しています。
こうした面取り、あるいは納まりですが、人によってはこのような仕口を採用せず、イモで接合し、完成後にトリマーなどで面をぐるりと回すという猛者もいるようですが、あまり良い方法ではありません。

然るべく、日本の伝統的技法(実は世界共通、ユニバーサルな技法)としての面腰とか、蛇口で加工することで、面処理を含めた「納まり」が美しく、良い仕上がりになるわけです。
スマートな技法ということです。

このような仕口を採用せずに、トリマーで面取りするとどうなるでしょう。
周囲は基本的に同じです(ただ仕上げ工程は、部品の状態と、組み上がった状態での難易度、精度の差となって現れますが)が、接合部が異なってきます。トリマーなどでは、接合部の隅まで刃が廻りません。恐らくは仕方なく、手ノミなどで誤魔化した処理とならざるを得ないでしょう。

面倒くさい工程であるとともに、仕上がりも首尾良くは行かない、そうした結果として大きな差異が出ます。
基本に忠実にいくことで、難なくスマートな仕上がりとして結果するのです。

なお、こうした面腰や蛇口という手法は、単に美質、デザインとして優位であるだけではなく、接合部の強度という側面からも大きな意味があります。
ここでは詳述しませんが、接合部が複雑に噛み合うことで、全体の剛性が大きく高まります。

なお、ポリカの落とし込みですが、下の画像のように上部の桟を2分させ、ここから左右の縦框、下部の横框に突いた溝(小穴)へと落とし込んでいます。
上部の分割した桟には、振れ止め、押さえとして蟻状の駒を埋け、2枚に分けた桟を咬ませ、然るべく保持させます(部位の物理的安定度の確保と、修復対応での事後の取り外しを可能とさせる)。
当然ですが、ボンドは用いません。

ドア上部

ハンドルと羽目板のポリカ

さて、そうした遊びが高じた序でに、ハンドルもぶっ飛んだものになりました。
ソメイヨシノの枝を配してみたのです。
キッチュと言われようが何といわれようが、構わないでしょう。

ドア、ハンドル部こうした自然素材は、見て楽しく、触って嬉しいものです。
少年、少女の頃、母親の制止を振り切り庭の桜の木に登り、普段には見ることのできない新しい視野の拡がりを目にしたときの喜び、そして樹上から降りてくる時の樹皮から伝わってくる感覚は、これが樹というものなんだという記憶として刻印されてきたはずです。

大人にもなれば、そうした原体験からははるか遠くで生きていくわけですので、たまには触れるのも悪くないでしょう。

嵌めたポリカですが、こうした素材があることなど、今回の建築以前は知りませんでした。
設計士の森岡氏から薦められたのですが、耐候性にめっぽう強く、軽量ですし、ガラスとは異なり破損のリスクも無い。
またポリカには多様な種類が展開されています。

今回はフロスト仕様で10mmという厚み。
内部は格子状になっていますので、強度もあり、また空隙があることで、断熱性も高いようです。


さて、これまで3種の建具を紹介してきましたが、とりあえず、建具はいったんここで終えます。
というより、まだまだ数枚もの建具を作らねばならないのですが、できていなくちゃ、紹介も何も・・・

次回からは、什器、造作家具、設備などを紹介できればと考えています。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 立派な物が出来上がりつつあるようですね。
    出入り口は一段高くなっていて、上がり框のようの物
    (名前が良く分かりませんが)が付いています。
    樺か、または水目でしょうか?
    鏡板を上から落としこむ手法はオークヴィレッジの
    キャビネットなどでも採用されていると思います。

    • さすが、acanthogobiusさん。ご所見の通り、上がり框の材はミズメです。
      まだ塗装していない個所(写真に撮って思いだした 汗;)でして、
      オイルフィニッシュしますと、より鮮やかに映えるでしょうね。

      >オークヴィレッジのキャビネットなどでも
      そうですか、ガラスの落とし込みなどでは、いくつかの納め方がありますが、
      建具では、この方式が一般的ですね。

  • ポリカーボ10mmなら断熱・非破壊・安全性ありおまけにぼんやり内部がわかる透過性あり。さすがです。

    • ABEさん、コメント感謝であります。
      ポリカーボネートの強さは「衝撃的」なようです。
      旅客機、新幹線の窓、といったものから、iPhone5Cの駆体まで多用途に用いられている素材のようです。

      この建具の場合、フロスト仕様(要するに磨りガラスの現代版)にしましたが、これはいわゆるデザインガラスと言われるものの1つで、大手メーカーの家具には引っ張りだこのよう。
      ポリカにも同様の仕上げ処理のものがあり、これを採用したのですが、良い選択だったようです。

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