工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

機械のお引っ越し

梅雨の晴れ間を縫って

梅雨の晴れ間の暑い一日、木工機械の引越作業に精を出す。
2tトラック+1tトラックをそれぞれ2便。明日、ほぼ同量の物量で終える予定だ。
起業時はこの1/3ほどの機械設備でスタートしたと記憶しているので、その増量は1/4世紀という時間の蓄積を表す指標であるかも知れない。

これまでは機械室は全体の半分、わずかに20坪ほどでしかなかったので、これらの機械は所狭しと設置され、作業環境は決して良いものでは無かった。
今後はそれもわずかに改善され、少しは清々とした作業環境になるはずだ。

またこれまでは手作業場こそフローリングの床にしていたものの、機械室はコンクリートのままだった。
新たな工房は機械室も床を張ったので、冬季の寒さへの対策も万全。
これについては経費との関わりで少し悩んだのだが、後悔しても機械設置後はどうしようもないので、やっておいて良かった。
大工の棟梁と二人で張り上げ、いささか腰を痛めたのだったが、その苦労は十分に報われるはず。

また床を張ることで、機械への電源供給も床下配線が可能となり、電源ケーブルが隠れ、すっきりとした環境になった(Workbench=作業台に付設したコンセントへの100v供給も同様だ)。

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因みに、うちの機械設備で最も重いのはプレナー(自動一面鉋盤)で600kg、あるいはプレスで1,000kgを超えるほどの重量があるが、移動作業に懸念された床のヘタリも無く、安堵させられた。
コンクリート床に105角の大引きを2尺(約60cm)ピッチで流し、ここに28mm針葉樹構造合板を張った。
この2尺ピッチという仕様での堅牢度が不安でもあったが、今日の作業を振り返れば問題無いようだ。

木工機械の市況

さて、少し木工機械をめぐる市況について触れてみたい。
うちの木工機械はありふれた機種ばかりで、桑原、大洋、永和、東海のものが含まれるのだが、それらの日本を代表する木工機械メーカーはいずれも今では廃業して久しい。
一方、ルーターとか高速面取盤で市場シエアを圧倒していた庄田鉄工などは健在ではあるものの、汎用機などは隅に追いやられ、もっぱらNCマシンであったり、素材も木材では無く、樹脂に軸足が置かれたりと、顧客リストにおける家具産業の影は薄いようだ。

日本国内での家具産業の低迷、空洞化は我々当事者の認識を超え、進んでいるらしいが、そうした状況下、地域の木工機械屋の廃業が相次いでいるのも事実。
起業時に世話になったこの地域最大の機械屋は廃業して久しい。
しかし一方、今回の引越で世話になっている機械屋S社は意気軒昂としており、その鼻息は荒い。
この違いはどこにあるのか。

別の事例から引いて見よう。
木材流通の末端の材木屋の場合。
機械屋と同様、地元の家具業界向けの材木屋は廃業が相次いでいる。

そんな中、起業以来25年の余、世話になっているH社は元気だ。
数年前だったか、国産材を求め、久々に訪れた事務所には机が増強され、そこには見掛けないスタッフが二人。
同業他社が廃業に追いやられ、あるいは業務縮小を余儀なくされる中、こうして業務を拡大させている会社もあるというわけだ。

ここ静岡は(かつては)家具産地として一時代を築いていた。北は北海道の旭川、広島の府中、そして福岡の大川と並ぶほどに産地を形成していた。
しかし、バブルが弾け、リーマンショックを経、やがて生き残ったのは稀で、中堅どころの多くが事業を畳んでしまった。
この煽りを受け、木材供給業者も後を追うように廃業していったのも必然というべきか。

そうした厳しい環境の中にあって、上述のように生き残り、事業を拡大さえしているところもあるというのが面白いでは無いか。

ビジネスとして何が優れていたのかについて、私はその分析の任には適さない。
しかし言えることは1つある。
生き残ったH社は、私がこの土地で木工を始めた頃、北海道からやってきて事業拠点を置いたのだったが、当然にも家具産地としての静岡への魅力、東京、名古屋の中間点という地の利も考えたのだろう。
しかし同業他社と較べ、少し異なるところがあった。
大きな資本を持つ家具工場への営業を掛けたのはもちろんだろうが、私たちのような零細規模の事業者への小まめな取引をも嫌うこと無く、熱心に、また誠実に業務取引を行っていたのだった。

その結果が、こうして今に繋がっていく。
ここ静岡では大きな事業所が無くなる一方、小規模、零細事業者の多くが健在であり、そしてインターネット社会への対応を含め、営業地域を拡大させることなどを加味させれば、十分に事業として成立するということを教えてくれている。

話しを元に戻そう。機械屋も同じようである。
このS社も我々のような零細、小規模の顧客対応を蔑ろにせず、誠実に事業を行ってきた結果として、事業を安定化、さらには規模を拡大させつつあるのだ。

所詮、現在の日本において、木工などという産業として形成させていくこと自体が困難な業界にあったとしても、その世界からなにが求められ、何を供給していくのが良いのかを理解した顧客対応をしていくならば、十分にビジネスとして成立しえることを、この2つの卑近な事例が示している。

産業としてでは無くとも、明日を拓く木工

昨年末、地元での個展の際、多くの若い木工関係者が会場を訪れてくれたことは意外で、驚くと共にとても嬉しい思いにさせられた。
産業としての家具製造業が成立するのが困難な時代。しかし一方では木工への魅力に自らの将来を賭け、参入してくる若い人々がいて、そして彼らとの紐帯を誠実に結ぼうとする関連事業者も少ないとは言え、確かにいるというわけだ。

これだけの事例を見せられれば、もはや木工に悲観する必要も無ければ、未来への希望を見失うことも無いのではと思うのである。

概観しただけのことではあるけれど、実はこうした産業の盛衰というものはいつの時代にも観られるありふれた光景かも知れない。無論、こうしたことは木工に限らず様々な業界で指摘できることだし、現在の日本国内における製造業の多くが安価な労働力を求め海外へとシフトさせられ、空洞化の憂き目をみていることもかつての時代とは異なる特徴的な傾向だ。

そうした中にあっても、我々と同じように小規模零細な事業規模で魅力的なモノを作り、社会に提供していこうと日々奮闘している作り手、クラフトマンらは死に絶えること無く、生き生きと活動しているだろうし、それを支え、ビジネスとして成立させようと奮闘している業者も存立しているに違いない。

私は根っからのオポチュニストということもあるのだが、今日は少し楽観的な立場に起ちたいと思うほどに、懸念された機械の移転設置も、楽しく、晴れ晴れとした気分で進捗していることに促され、久々にこのBlogを更新することになってしまったというワケである。
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半年ほど更新が滞ったままだったBlogですが、少しづつ再開しようかと考えています。
新しい工房が少しづつ形になってきたこともありますが、そうしたことを含め、以前ほどの頻度では無くとも、ボチボチ筆を進めていければと思っています。

どうぞ、よろしくお引き回しの程、お願いいたします。
良い週末を!

更新のためのサーバーログインのシステムがいつのまにか改変され、その打開に手間取ってしまい、こうして更新できたのは3日後のこと …>_<… 記述のためのHTML、CSSタグをほとんど忘れてしまっていて、思い出しながらのタイプ。年は取りたくないですな、ご同輩

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  • 快適な作業場になり、足裏の疲労は軽減されます。薪割りも厚合板を敷くと不思議と集中力持続。マシンのワークエリアラインをひいて、モノ置かず。3年後の様子画像が楽しみです。稼ぎに追いつく整頓はなし。キコルABE

    • 床板材種の違いだけでも脚の疲労度も異なるという話しはよく聴きますが、ましてやコンクリートと板では・・・

      整理整頓ですが私の辞書からは消えてしまっているのか、どうも自信が持てません。
      実は今日も旧工房の片付けをしていたのですが、機械が去った後の木屑の多さに呆れています。

  • artisanさん!
    大変 ご無沙汰いたしております!
    久し振りのブログ更新、とても嬉しかったです、笑!
    食い入るように読んでしまいました!

    artisanさんの工房が、あの新幹線の線路ヨコではなくなるんだなぁと思うと
    やっぱりちょっとさみしい気分です。

    これから猛暑がやってきますが どうぞお身体に気を付けてお過ごしください。
    ブログ 本当に楽しみにしていますから!

    • サワノさん、変わらず元気そうで嬉しいですね。
      ぜひまた遊びに来てください。
      今度の場所は通行の激しい道路っ端ですので、来られるときは愛車の駐車にはご注意を。

  • いつも楽しく拝見しております。
    新工房の機械室の床張りについてですが、どのように張られているのでしょうか?
    重量級の機械を設置する場合の床の構造、張り方について教えていただけないでしょうか?

    • 私は建築構造に関しては素人のようなものですので、確たることを記述できる立場にはありませんが、今回の経験に基づいて、という限定的なところで記します。

      本文でも書いたとおり、木工機械の汎用的な機種であれば重量級でも500kg〜1,000kgといったところですので、今回の仕様を満たせば大丈夫と考えて良いでしょう。

      うちではコンクリートの床にアンカーボルトを埋け、防腐処理された米栂、105角の大引きを2尺(≒60cm)ピッチで転がし、固定します。(この防腐処理材の105角がやたらと重く、難儀でした)

      ここに28mm針葉樹構造合板(本核付き)を隙間無く張っていきます(50mm〜コーススレッドで固定)
      核付きですので、当て材を介し、大ハンマーで叩くことでしっかりと張り上げることができます。

      ただ、この2つの工程だけです。

      もし、床下に断熱材を施すのであれば、大引きの上に45角ほどの根太を直交で流し、この根太間に(大引きの上)断熱材を入れます。

      なお、大引きですが、2尺ステップは最低限のピッチで、経費が許されれば、1.5尺(≒45cm)ならなお堅牢になりますね。

      また28mm合板ですが、この厚みは譲れないと思います。(28mmだからこそ2尺ピッチで済んでいるとも言えます)
      また3×6尺サイズの他、メーターモジュールで1m×2m というものもあります。
      ただめちゃくちゃ重く、また大きくなりますね。
      ひとりで扱うには3×6尺サイズが手頃です。

      今回の木工機械の搬入設置作業では、本文記述の通りこの構造で全く問題ありませんでしたが、懸念されるとすれば、床段差をクリアさせることでしょうか。
      機械屋は様々な搬送用のツールを準備してるはずですが、段差をクリアさせるスロープもしっかりと準備することが必要です。

  • はじめまして、こんにちは。

    埼玉で家具作りをしている西尾と申します(屋号は、木工房春のはな)。杉山さんのブログではいつも有意義な情報をいただいており、感謝しております。

    さて、この度、新しい工房を作ることを決めまして、いまいろいろ設計に頭を悩ませているところです。

    上記の記事でお尋ねしたいことがあります。お忙しいと存じますが、教えていただければと思います。

    1)機械のケーブルを床下に回したということですが、コンセント部はどうされたのですか?床に埋め込まれたのでしょうか?

    2)杉山さんが電源ケーブルを床下に配置されたのと同様に、集塵のパイプも床下に回すことができないかと考えております。杉山さんは、集塵機のパイプはどのようにされたのですか?

     不しつけで申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

     西尾正哉

    • 西尾さん、ようこそ!
      このコメント投稿、最初だけ承認制ですが、今後は送信と同時に反映しますので、
      今後ともよろしくおねがいします。

      さて、貼り付けていただいた貴サイト拝見。
      かわいい子供達に囲まれ、充実した業務に勤しみ、幸せそうな雰囲気でなごみます。
      ユニークな工房名、次の子供さんの名前も入れて上げてくださいな。

      さて、ご質問ですね。
      1)機械への動力(三相)配線、端末処理、
      床下配線はとても良いですね。
      うちでは壁際からが6割、残り4割が床下です。

      ご質問の[コンセント部}とありますが、三相の機械への配線は配電盤に取り付けたブレーカーを介し、機械のスイッチBOXまで直接繫げます。コンセントを介する場合もありますがそれは移動式等の場合のみです。
      一般に機械は固定されますので、コンセントは設けません。

      ただ、修理等の都合を考え、機械直近の床下から起ち上げたところに、小さな配電BOXを置き(床に木ねじで固定)、ここでブレーカー側と機械側のケーブルをジョイントします。(一般には電気工事屋の範疇)

      2)集塵配管の床下処理
      お考えは良く分かります。私も同じ事を考えました。

      しかし、機械屋と相談したところ、これは却下。
      理由は単純でして、木片などを吸い込む場合も少なく無く、どこか途中で詰まることがあります。
      その後の処理は、やはり天井配管と異なり、床下はとても困難になるからですね。

      かくいう私、まだ集塵システム、未完です。
      いくつかの理由で先延ばし。

      西尾さんに先を越されそう(恥;)

      床下配線ですが、三相はもちろん、商用100vも必要に応じてなさった方が良いでしょうね。
      コンセントは数あった方が良いものです。

      あるいはドラム式の延長ケーブルを天井の梁などに置くのも良いものです。

      電気関連で言えば、照明設備も悩ましいですね。
      LEDといきたいところですが、工場仕様の蛍光灯様のものはまだ高価ですし。
      ・・・一部はセンサー付きのLED照明をぶら下げていますが、これは快適です。

      今後も何なりと、コメントください。
      工場設備、後々後悔されぬよう、納得のいく仕様で整備してください。

  • こんにちは。

    早速のご返事、ありがとうございます。

    今度の工房には店舗などを併設したいと思っており(お金があれば)、その際には3人目のこどもの名前も入れたいと思っています(相当の親○カです)。

    1)機械への動力(三相)配線、端末処理、

    さて、機械と電源ケーブルの件、ありがとうございます。直接つなぐことが良いようですね。理解しました。配電ボックスのことは、電気屋さんに聞いてみることにします。

    2)集塵配管の床下処理

     この5日(日曜日)に職業訓練校(飯能)の同級生と同校の元講師の方の工房に見学に行ってきました。ちなみに所在地は群馬県の北軽井沢と長野県御代田町です。

     どちらの工房も床下に集塵ダクトを回し、その上に針葉樹合板を張っていました。そして、二人ともこれがとても便利といって、すすめてくれました。
     最大の利点は、掃除のしやすさだそうです。たしかに床の上に電源コードと集塵ダクトがないととてもすっきりしていました。

     杉山さんがおっしゃるように、北軽井沢の彼によると、たまに詰まることがあるそうです。手押しや自動カンナのおがくずは問題ないらしいのですが、やはり木っ端や超仕上げのカンナクズなどを吸い込むとダメだそうです(床上のゴミは、ホウキで集めて集塵機に吸わせているらしい)。
     ただ、そういうことを見越して、メンテナンスのために床板をはずせるようにしているので、それほど難儀はしていないようです。

     私のこころは、かなり床下ダクトに傾きました。ただ、頭を悩ませるのは、大引きをどうするかです。Φ100のダクトをクリアするには、4寸角の柱を敷くのかなぁ、などと考えています。ちなみに北軽井沢の彼は、2X6材を使っていました。

    3)暖房
     火事がこわくて、ストーブの設置はしないことにしていたのですが、北軽井沢の彼がペレットストーブ(http://www18.ocn.ne.jp/~asb.eco/psss.html )に自動カンナのクズを詰め込んで使っていてこれもすすめてくれました。鉋屑の処理と暖房が利用できて、一石二鳥だそうです。

    長々とすみません。
     

    • 〈配線ボックス〉
      こんなものです(PVKボックス

      〈集塵配管の床下処理〉
      なるほど、実態を見聞し、判断するのが最良ですね。
      集塵システム、低コストで設置するのはなかなか難しいものがあるようです。
      効率よく集塵するには集塵機本体の能力(パワー)、風量計算に基づいた配管システム等々、専門的な知見も求められるようですので、機械屋などにアドバイスを求め、失敗しないようにやってくださいね(簡単には替えられませんので)

      大引きは105角までは比較的安価に入手できますが、4寸角となるとそれなりに費用負担も。
      2X6ですか。
      高さは稼げますが、そのままですと、ちょっと薄いですね。
      2枚合わせにするとか、ピッチを細かくするのかな?

      〈暖房〉
      北海道の木工屋さん、このペレットストーブをよく使っているのを見ています。
      木工屋にうってつけですね。

      新しい工房の完成が楽しみですね。
      がんばってください。

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