ケヤキのかほり
ケヤキを削り上げる作業は独特の高揚感がある。
何故なのだろう。
ケヤキ特有の芳香に包まれながらの“快楽的作業”という側面も、これに関係していると言っても良いかも知れない。
人の五感の一部を刺激するという感覚は、直裁的であり、これは作業者でしか感得することのできない特権でもあることで、より高まろうと言うものだ。
(芳香の源は、木を切ったり、削ったりする作業工程で飛散する微粉末が発するもの。常態ではさほど感じないし、塗装してしまえばなおのことである)
ボクたち木工職人は、五感を動員し、被工作物(主には木材)に向かい、対話し、そして加工を施す。
優れて身体性に拠る職業人だ。
ところで、うちの家具制作において、ケヤキを用いる事は稀だ。
むしろ忌避しているとさえ思えてくる。
確たる理由があるわけではないが、ケヤキ=和風、という印象、既成概念から離れたい、という思いに囚われていることはある。
古来より社寺仏閣の建築材として積極的に用いられ、日本建築と言えばスギ・ヒノキであり、広葉樹であればケヤキであり、栗である、といったように、明確なアイコンとして位置づけられる材種である。
当然、こうして広く一般に使われてきたのには理由がある。
芳香を放つから、というわけでは無いのは、残念ながらその通りとしても、まず何より物理的性質が優れているということを上げるべきだろう。
重硬(気乾比重:0.5〜0.85)で、強靱。加工での破綻が少ない。
対朽性に優れ、保存性が高い。
加工性も優れていると言えるだろう。鉋掛けも決して困難では無い。
重厚な材種は、時として脆く、細密な加工には不向きなものも多いもの。
しかしケヤキは破綻のリスクは少なく、緻密で均質な細胞は鉋掛けも容易であり、優れた木工職人の鉋掛けのあとは、重硬であることにより材面は光り輝く。
加えて、典型的な環孔材であるため年輪が明瞭に表れ、化粧的価値は高い。
寺社仏閣の庭にはもちろんだが、旧い農家には屋敷林として植えられているのも多く見掛け、街中でも街路樹として視ることも多い。つまり、山中密かに眠っているのでは無く、里で人々に愛され、親しまれている代表的な広葉樹である。
ここでは材種についての解説が目的では無いので、深入りは避けたいが、こうした日本を代表する広葉樹種であることに忌避感に囚われながらも、刃物を当てれば、たちまちその物理的特性の魅力に取り憑かれるという有り様には、我ながら呆れてしまうのである。
画像のケヤキは和室、床の間の床板に供する。
床板用の材をあちこちと探したのだが、最近では和室そのものの需要も少なければ、例え設えたとしても、床板はほとんどが張り物であるようで、無垢板、しかも1枚板での市場流通はとても稀少なものであるようなのだ。
止むなく、床板としてはかなり厚いものになってしまったのだが、2.5寸厚、3尺幅のものが入手できたので、そのままの厚みで納めることにした。
一般には7〜8分ほどの厚みの床板(地板)に吸い付き桟を嚙ませ、床框に納める、という方法が取られる。
これに倣い、再製材して薄くする方法もあるだろうが、その方法では恐らくは内部応力の関係からかなり反ってしまうだろう。
ここはあえて厚いまま、床框を設けず、この2.5寸厚を見付けにして、納めることとした。
ギリギリ3尺幅なので、見付に白太が残ることになるけれど、これもご愛敬だろう。
acanthogobius
2013-11-11(月) 16:07
随分と贅沢な床板ですね。
立派な床の間ができそうです。
やはり仕上げは漆でしょうか?
ところで、リフターは最近導入されたのですか?
artisan
2013-11-11(月) 21:55
特段、杢がかったものでも無く、広く大きな(素直なケヤキ、と言ったところですね。
元は10尺ほどの長さがありましたので、さずがに鋸を入れるときは緊張しました(苦笑)
仕上げは、やはり漆でしょうね。
リフターですか?
あまり覚えてはいませんが、20年以上も昔のことになるでしょうか。
普段はプレナーの削り終わった材の受け台として重宝しています。
厚みにより、受け台の高さの調整が必要となりますのでね。
たまには重量材を扱うときの作業台に変身、というわけですね。