工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

第81回アカデミー賞から

第81回アカデミー賞、決まったが、その結果は下馬評とはちょっと違ったようだね。
最多13部門にノミネートされていた「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は、完敗だった。
主要部門はみな持って行かれ、ジミ〜な美術賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、の3冠。
「スラムドッグ$ミリオネア」が、主要部門を含む最多8部門に輝いた。
・作品賞・監督賞(ダニー・ボイル)・脚色賞・撮影賞・録音賞・編集賞・作曲賞・歌曲賞
主演男優賞は、同性愛者をカミングアウトし、米国史上初めての政治家に扮したショーン・ペン(ミルク)。
主演女優賞はケイト・ウィンスレット(愛を読むひと)
日本のメディアを興奮させたのは、「おくりびと」(滝田洋二郎監督)の外国語映画賞、そして「つみきのいえ」(加藤久仁生監督)が短篇アニメ賞を獲得。
すばらしいですな。
因みに、この外国語映画賞というのは、比較的新しく設けられた部門で、それまでは「特別名誉賞」というものがあり、これには過去、「羅生門」(黒沢明監督)、「地獄門」(衣笠貞之助監督)、「宮本武蔵」(稲垣浩監督)が受賞している。したがって「初受賞」というのは間違いではないけれど、こうしたことを触れた上で表明すべきだろうね。
メディアの報道にあっては、このような場合、先人に対する敬意を損なうような解釈は注意しないとね。
さて「スラムドッグ$ミリオネア」だが、これはボクにとっては必見の映画になりそう。
第66回ゴールデン・グローブ賞4冠、英国アカデミー11部門ノミネート、映画俳優組合賞(再最高賞)、全米監督組合賞、などなど、アカデミー受賞前にいくつもの栄誉に輝いている。


イギリス人映画監督ダニー・ボイルの力作。
ボンベイのストーリートキッドの主人公が、『クイズ・ミリオネア』を勝ち抜き、億万長者になるかも知れないというファンタジーの様な夢物語(原作:Q&A)、と言えば他愛ない話になってしまうが、世界の覇権構造が大きく変動する時代の象徴でもあるインドを舞台とすることで、世界の普遍的な問題の坩堝(るつぼ)が描かれ、単なる寓話的なストーリーに留まらない、活気あふれる冒険譚ともなっているようだ。
貧困、宗教問題(ヒンドゥー教とイスラム教間)、売春、犯罪集団による子供の誘拐 etc。
エンドクレジットには驚かされる仕掛けもあるようだしね。
「おくりびと」。多くの批評、解説が出揃っているだろうから、パスしようと思ったけど、少しだけ触れる。
この受賞は滝田洋二郎監督の力量でもあるが、一様に語られているように、本木くんの静かなパッションが成功をもたらしたものだろうね。
素材を見つけ、プロデュース役を果たしつつ、主演を演じきったという熱の入れよう。
ここに凡百の役者にはない知性と、情熱、演技力、総じて表現者としての力を見ることが出来るだろう。
ボクは内田裕也と、樹木希林の娘、也哉子を妻として迎えた時に、この男はただの浮かれたジャニーズ系じゃないと直感したことがあったが、その後の活躍はここで紹介することもないだろう。
この受賞を機に、ハリウッドへ、などとは簡単にはいかないだろうが、また新たな良い作品を作ってくれることを期待しよう。
(恐らくは周囲の期待を裏切る、あっと言わせるような作品を期待するね、ボクとしては)
因みに『コミック雑誌なんかいらない!』は内田裕也が主演だったことは知っていると思うが、監督は滝田洋二郎。
この監督、それまではもっぱら成人映画の巨匠だったが、この映画を機に一般映画を取るようになった。
してみれば「おくりびと」も内田裕也繋がりで構成されたスタッフ、キャスティングだったのかな?
でもボクは「つみきのいえ」(加藤久仁生監督)が観たいね。
一般公開されるのかしらん。
テーマがどうのこうのとは、ここでは語らない。
アニメ好きな若い表現者が、色鉛筆を走らせながら、独特の絵画世界から映像世界へと、まさに自分の楽しみのために作ったような作品だ。
てらいもなければな力みもなく、軽やかに疾走するという感じですてきだな。
もちろん、描かれる世界が普遍的であるからこそアカデミー会員を説得させてしまったということなのだが、あのインターナショナルというかユニバーサルというのか、帰属性を感じさせない風貌がステキだ。いや主人公のことであり、監督は完璧なアジア人の風貌だけどね。
期待が大きく膨らみカネも集まるだろうから、次回作は大作で、ということになるかもしれないが、ヘンに力まずに、軽やかに、自分らしい作品で勝負してもらいたいと思うね。
ボクは個人的にはアニメ作家としてはフレデリック・バック(カナダ)が大好きなのだが、何となく作風はこれと似ているかもしれない。
(小さな声で言うのだが‥‥、宮崎駿も良いのだけれど、個人的にはこの新しい作風を持った加藤久仁生監督に大いに期待したい)
ところでフレデリック・バックって誰かって?
「木を植えた男」(ジャン・ジオノ原作)などで著名なアニメ作家さ。
それから外国語映画賞では「おくりびと」の対抗馬だった「戦場でワルツを」(イスラエル)もぜひ観たい。イスラエルが抱える本質的な問題へとアプローチしている(かもしれない)作品として、興味深いよね。アニメ映像を使っての実験的手法というのも興味深い。
アカデミー会員はユダヤ系も多いと言うから、この「戦場でワルツを」を押さえての「おくりびと」の受賞は、なかなか含蓄のある話題だ。(ロビー活動の成果?それだけであるわけないか、実力、実力 !)
‥‥あぁ、今年に入って映画をまだ2本しか観ていない。
‥‥如何に人生を無駄に生き、怠惰に暮らしているのか。
そうそう、最期にアカデミー作品気になる人は、次のサイトにいくと、受賞作品などがエンドレスな動画で観られるよ。(かなり良質な画質でのフルスクリーン対応)
楽しんで欲しい。
アメリカアカデミー、ビデオコーナー
*ここからは、それぞれの作品の関連サイト。
アカデミー、サイトの「おくりびと」
アカデミーサイトの「つみきのいえ」
同じくアカデミーサイトの「戦場でワルツを」
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」

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